理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2003年5月13日


霊長類ES 細胞から末梢神経系ニューロンの分化誘導に成功
− 末梢神経系の幹細胞治療の可能性への期待−
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CDBの笹井芳樹グループディレクター(細胞分化・器官発生研究グループ)らは、マウスおよびサルES 細胞を用いて、末梢神経系ニューロンへの分化誘導法を世界に先駆けて開発した。
以前に、笹井芳樹グループディレクターらは、PA6 細胞という特殊な細胞が産生する因子を用いて、マウスおよびサルES 細胞からドーパミン神経などの中枢神経系ニューロンを試験管内で高効率に分化させる方法(SDIA 法)を開発していた。今回の研究ではまず、SDIA 法と増殖因子などを組み合わせることで、サルなどのES細胞から脳幹や脊髄の運動ニューロンや底板をはじめとする広範囲の中枢神経系細胞が分化誘導されることを明らかにした。さらに、BMP4 を作用させることにより、末梢神経系の前駆細胞(神経堤細胞)を分化させることに成功した。こうしてできた神経堤細胞からは知覚ニューロンなどが分化することが示された。
これらの研究成果は、ES 細胞を用いた神経系の幹細胞治療に関して、従来言われてきたパーキンソン病などの中枢神経系疾患のみならず、ヒルシュスプルング病などの末梢神経系疾患にも応用出来ることを示すもので、再生医学の可能性を大きく広げたといえる。なお、この研究はCDBと京都大学、大阪大学による共同研究で進められた。本研究成果は、米国の科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy Sciences of the United States of America: PNAS 』に発表された(Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 May 13;100(10):5828-33.)。

サルES細胞から分化させた知覚ニューロン サルES細胞から分化させた運動ニューロン

ヒトを含めた動物の神経系は大きく中枢神経系(脳、脊髄)と末梢神経系(知覚神経、自律神経、腸管神経など)に分類される。哺乳類においては、どちらの神経系のニューロンも非常に再生能が低く、一旦障害されると自然には回復しにくいことが知られている。そのため幹細胞などから障害されたニューロンと同じ細胞を作り、患部などに移植する技術が近年注目されている。その典型は中脳のドーパミン神経の変性・脱落でおこるパーキンソン病の治療開発で、試験管内でドーパミンニューロンを産生し、それを大脳基底核に細胞移植することが検討されている。CDBの同グループディレクターと水関健司研究員が中心に進めた今回の研究では、胎児の中で神経系組織が発生する細胞外環境(増殖因子など)を試験管内で再現することで、ES 細胞から非常に幅広い種類の神経系のニューロンを試験管内で産生できることが証明された。今回の研究成果は末梢神経系の再生医学に科学的基盤を築いた点で、重要な意味をもつといえる。

掲載された論文 http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/100/10/5828

[ お問合せ : 理化学研究所 発生・再生化学総合研究センター 広報国際化室 ]


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