独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2004年7月13日


XsalFが前脳および中脳の誘導に重要な働き
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脊椎動物の神経発生では前後軸にそった明瞭なパターニングがみられる。このパターニングを司るメカニズムが長年研究されてきた。現在有力な 2 段階誘導モデルでは、まず前後軸にそって神経組織が誘導され、続いてその神経組織の後部が特定のシグナルによって後方化されると考えられている。この様な後方化には、 Wnt や FGF ファミリー、レチノイン酸といった様々なシグナル分子が関与している事が知られる。このモデルは多くの研究によって支持されているが、前脳などの誘導には 2 段階誘導モデルの最初のシグナルに加え、別の何らかの制御が必要である事が最近の研究により示唆されていた。

尾内隆行ジュニアリサーチアソーシエート(細胞分化・器官発生研究グループ、笹井芳樹グループディレクター)らはアフリカツメガエル( Xenopus laevis )を用いた研究で、 XsalF と呼ばれる遺伝子が前脳(大脳および間脳)および中脳の発生を制御することを明らかにし、 Developmental Cell 7月号に発表した。 XsalF は、分節のアイデンティティーの決定に関与するショウジョウバエの遺伝子 spalt のホモログであるが、アフリカツメガエルにおいては前脳および中脳に特異的な遺伝子の発現を調節している事が今回の論文で報告されている。 XsalF の欠損や異所発現などの解析結果から、 XsalF の発現と前脳および中脳の誘導に直接的な関連があることを見出した。

神経胚期のアフリカツメガエル胚を用いてXsalFと中・後脳マーカーであるPax2との二重染色を行ったところXsalFの後方での発現境界がPax2の発現と重なった。

XsalF は神経板の前方で発現する遺伝子としてまず同定された。シークエンス解析や発現解析の結果、脳のパターニングにおいて初期の前脳と中脳に発現する転写因子である事が分かった。尾内らは mRNA を初期胚に注入することで XsalF を過発現させた結果、前脳および中脳に特異的な遺伝子の発現領域が拡大し、逆に後脳マーカーの発現は低下することを示した。次に XsalF の機能ドメインを欠損させたドミナントネガティブ体を用いた機能阻害実験では、生じた胚は前脳および中脳の構造を大きく欠損していた。また、時間別に XsalF の機能を欠損させる一連の実験から、 XsalF は脳の領域化が起こる神経胚の初期及び中期において特異的に必要とされる事が明らかになった。この結果は、モルフォリノアンチセンスヌクレオチドを用いた機能阻害実験でも確認された。

アフリカツメガエル胚においてXsalFのc-terminal deletion constructのmRNAを用いてXsalFの機能阻害を行うと頭部の構造が不完全な胚となる。

さらに彼らは XsalF が前脳を誘導するメカニズムを分子レベルで解明するために、神経組織を後方化することが知られている Wnt シグナル(細胞外因子)との関係を解析した。その結果、特定の条件下で Wnt シグナルを抑制する GSK3 βと Tcf3 の発現が XsalF に依存することが明らかとなった。さらに詳細な解析の結果から、 XsalF は GSK3 βと Tcf3 の発現を活性化することで、 Wnt シグナルによる神経組織前方の後方化を抑制している事が示された。

このように今回の研究で、 XsalF は前脳・中脳の発生に不可欠な制御スイッチ遺伝子であり、その一つの作用メカニズムとして神経前駆細胞の Wnt シグナルへの反応性(コンピテンス)を低下させることが明らかとなった。彼らは今後、脳のパターン形成における XsalF の直接的・間接的な制御標的の実体を明らかにしたいという。

掲載された論文 http://www.developmentalcell.com/content/article/abstract?uid=PIIS1534580704002060

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