独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2005年2月16日


ゼブラフィッシュの神経ストライプがつくられる仕組み
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ゼブラフィッシュの胚発生では原始神経と二次神経が出現するが、原始神経は孵化直後の幼生が環境に応答したり、運動したりするのに重要な役割を担っている。この原始神経は、神経発生の初期に背側外胚葉で頭尾軸に沿ってストライプ状に出現する原神経領域(プロニューロナルドメイン)から形成される。原神経領域には、neurogenin1(neurog1)やolig2pnxなどの原神経マーカー遺伝子が発現し、これらを発現しない中間領域(インタープロニューロナルドメイン)と明確に区別される。原神経領域の細胞がどのように神経細胞へ運命付けられていくのかは比較的良く研究されているが、そもそもこのストライプ状の領域化がどの様にして起こるのかは未解明な点が多かった。

体軸形成研究チーム(日比正彦チームリーダー)のYoung-Ki Bae基礎特別研究員らは、原神経領域の形成という神経の初期パターニングが起こるメカニズムの一端を明らかにした。ショウジョウバエを用いた研究では、hairy/enhancer of splitと呼ばれる転写抑制因子が、神経形成を抑制していることが知られていた。マウスやアフリカツメガエルといった脊椎動物においても、関連遺伝子であるHer/Hesファミリー遺伝子が神経形成を抑制している。この様なHer/Hes遺伝子による神経形成の抑制は、Notchシグナルの下流で起きているとする研究がある一方で、神経発生期の位置情報を元に制御されていると考えられてきた。

her3/her9、mindbombを阻害したときの神経マーカー(elavl3)の発現の変化


Bae研究員らは、ゼブラフィッシュのHer/Hes遺伝子her3およびher9が、背側の後部神経外胚葉において原神経マーカーを発現しない中間領域、つまりストライプの間の領域に発現していることを発見し詳細な解析を進めてきた。彼らはまず、her3及びher9の発現とBmpシグナルとの関係を解析したところ、Bmpシグナルを阻害するとher3her9を発現する領域が拡大し、これに対応するように原神経マーカーを発現しない中間領域が拡大することを示した。つまり、her3およびher9の発現は、Bmpが形成する位置情報に直接的もしくは間接的にコントロールされている事が示唆された。

次に彼らは、ゼブラフィッシュの胚発生の様々な場面でHer遺伝子の発現を制御していると考えられるNotchシグナルとの関係を調べた。しかし驚くべきことに、Notchシグナルを活性化するmind bomb遺伝子の変異体においても、NotchのレセプターであるDeltaを抑制しても、またNotchを阻害剤で直接的に抑制しても、いずれの場合もher3及びher9の発現に変化は見られなかった。

次に原神経領域によって二次的に中間領域が形成されている可能性を検証する為に、原神経マーカーの1つであるneurog1を異所的に発現させると、原神経領域の異所形成がみられたがher9の発現には何ら変化がなかった(her3の発現は抑制されたが、これはNotchレセプターであるDeltaの発現増加によるものと考えられる)。neurog1olig2の機能をアンチセンスモルフォリノで阻害した場合も、原始神経の形成が阻害される一方で、her3及びher9の発現には影響がなかった。

さらにBaeらは、her3及びher9の機能をアンチセンスモルフォリノでノックダウンする実験で、これらの分子の機能を探った。その結果、her9の機能欠損はストライプの間、つまり中間領域での異所的な原神経マーカーの発現を引き起すことが明らかとなった。her3の場合も同様であったが、これらの効果は空間的に限定されていた。her3her9を同時にノックダウンすると中間領域が欠失し、結果的に神経板において偏在的な神経形成がみられた。さらに、her3her9、Notchシグナルを同時に抑制すると、偏在的かつ均一な原神経マーカー及び神経マーカーの発現が神経板で起きた。

彼らはこれらの結果をDevelopment誌に発表し(2月16日にオンライン発表、 http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/dev.01710v1)、ゼブラフィッシュの初期神経形成において、her3/her9とNotchシグナルが異なる役割を果たす新たなモデルを提唱している。これまでの研究が示しているように、Notchシグナルは原神経領域内での側方抑制による神経細胞数の限局等に機能していると考えられるが、今回の日比らの研究は、より早い段階でher3及びher9が位置情報を受け、神経形成領域のパターニングを制御するプレパターン遺伝子として機能していることを示している。


掲載された論文 http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/dev.01710v1

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