独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2005年7月1日


哺乳類の頭部形成にSsdp1が重要な働き

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脊椎動物の発生の初期過程では、シグナルセンターと呼ばれる胚の領域が周囲の細胞集団に働きかけ、体の前後・背腹軸や神経管、消化管といった体の基本構造、つまりボディープランをつくり上げる。頭部形成では、頭部オーガナイザーというシグナルセンターが中心的な役割を担い、神経管の前方化や頭部構造の誘導を行う。これまで、ヘッドオーガナイザーの形成にかかわる遺伝子が複数みつかっているが、それらの相互関係や時空間的な発現パターンなど、機能の詳細は明らかでなかった。

今回、胚誘導研究チーム(佐々木洋チームリーダー)の西岡則之らを中心とする研究グループはマウスを用いた研究で、Ssdp1(single-stranded DNA binding protein1)と呼ばれる分子が転写活性化因子として機能し、後期の頭部オーガナイザーの形成に決定的な役割を担っていることを明らかにした。この研究は、大阪大学、北海道大学、ミネソタ大学、テキサス大学、NIHとの共同で行われ、Development誌の7月号に掲載された。

Ssdp1遺伝子に変異を持つheadshrinkerマウス(右)は頭部を欠失して生まれてくる

ことの始まりは、headshrinker(hsk)と名付けられた頭部欠損マウスだった。彼らが、別の目的で外来遺伝子を持つトランスジェニックマウスを作成していたところ、耳の位置よりも前方の頭部を欠損して生まれてくるマウスが偶然得られたのである。これは頭部オーガナイザーを欠損するマウスに特徴的な表現型で、直ぐに原因遺伝子の同定に取り掛かった。外来遺伝子の挿入位置をFISH法などで解析したところ、第4染色体にあるSsdp1(Single-stranded DNA binding protein1)遺伝子が破壊されていることが分かった。実際に、hsk変異体ではSsdp1の発現量が下がっており、逆にSsdp1を外来的に発現させることでhskの表現型が正常に戻ることが示された。

続いて彼らは、hsk変異体における頭部オーガナイザーの形成を詳細に解析した。すると、前方臓側内胚葉(AVE)や前方胚体内胚葉(ADE)といった初期の頭部オーガナイザーは正常に形成されているのに対し、7.5日胚の後期頭部オーガナイザーである脊索前板が形成されていないことが明らかになった。さらに、この脊索前板の異常が神経外胚葉の形成に与える影響を調べたところ、中脳と後脳の境界より前方の頭部神経外胚葉が欠損していることが分かった。この結果は、脊索前板は頭部神経外胚葉の後方化を抑制することで、頭部を維持・誘導していることを示唆している。

以前から、頭部オーガナイザーの形成にはLim1と呼ばれる遺伝子が必要で、Lim1を欠損すると、やはり頭部を欠損したマウスが生まれることが知られていた。Lim1はLIMホメオドメインファミリーに属する転写因子で、その活性化にはLdb1と呼ばれる共役因子との結合が必要とされる。さらに、Ssdp1はこのLdb1と結合することが生化学的実験により報告されていた。

そこで彼らは、Ssdp1がLdb1を介してLim1と複合体を形成することで転写因子として活性化し、後期頭部オーガナイザーの形成に関与していると考えた。実際に、脊索前板にこれら3つの分子が共発現していることが示され、さらに、レポーター遺伝子を用いた細胞レベルの解析でも、Ssdp1、Ldb1、Lim1全てを共発現させた場合のみ、脊索前板特異的遺伝子のプロモーターが強く活性化された。また、この転写活性はSsdp1の発現量に依存することなどから、Ssdp1自体が転写活性化能をもっていることが明らかになった。

これらの結果から彼らは、Ssdp1-Ldb1-Lim1複合体の中でSsdp1が主要な転写活性化因子とて機能し、脊索前板において後期頭部オーガナイザーに特異的な遺伝子発現を促進している、というモデルを今回の論文で示している。今回佐々木らによって作成されたhskマウスでは、頭部欠損以外にも、細胞増殖やアポトーシスの異常、胸骨の形態異常など様々な異常が見られた。今後、これらの異常にSsdp1がどの様に関与しているのかも解明が待たれる。


Link to article http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/132/11/2535

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