独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2005年12月28日


小胞輸送に働くCOG複合体が器官形成に重要な働き

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器官形態形成において細胞移動は極めて重要な意味をもつ。細胞は単一または集団でダイナミックかつ正確に体内を移動し、各器官に特徴的な構造をつくり上げていく。細胞移動には、道標分子による誘引や細胞外マトリックスの再編成、細胞骨格の再編成など様々な現象が複雑に絡み合うが、これらが上手く調和してはじめて正しい細胞移動が可能になる。線虫の生殖巣形成では、生殖巣の両端に位置する遠端細胞(Distal Tip Cell, DTC)が体壁内面に沿って移動し、これによってU字型の生殖巣が形成される。線虫は唯一、細胞系譜とゲノム情報が明らかな生物であり、細胞移動を遺伝子レベルで研究する格好のモデルとなっている。

今回、CDBの西脇清二チームリーダーと久保田幸彦研究員(細胞移動研究チーム)らは、COG(Conserved Oligomeric Golgi)複合体が、ADAMプロテアーゼの糖鎖付加を介して、線虫の生殖巣の形態形成に重要な働きをもつことを明らかにした。この研究成果は、Development誌に12月14日付けでオンライン先行発表された。

後ろ側生殖巣の形態:cogc-1変異体では、野生型で見られるU字型の器官形成が起こらず、mig-17変異体と同様の蛇行・迷走表現型を示す。オレンジ色の線は、遠端細胞移動の軌跡。

西脇らは以前の研究で、生殖巣に形態異常が見られる変異体の解析から、DTC移動に重要な多数の遺伝子を同定していた。そのうちの1つMIG-17は、ADAM(A Disintegrin And Metalloprotease)ファミリーに属するプロテアーゼで、体壁筋細胞から分泌され、生殖巣の基底膜上に局在して機能することを突き止めていた。彼らは今回、MIG-17変異体と同様の形態異常を示す2つの変異体、cogc-3cogc-1について詳しく解析を行った。するとまず、これらの分子は酵母や哺乳類で見つかっているCOG複合体の構成因子と相同であることが明らかになった。COG複合体は8つのタンパク質からなり、小胞体やゴルジ体において、分泌タンパク質の小胞輸送に働くことが知られている。彼らが解析を続けたところ、他の6つのタンパク質についても線虫に相同分子が存在し、そのいずれを阻害してもDTCの移動と生殖巣の形態に異常を生じることが分かった。また、COGC-1とCOGC-3蛋白質は共沈殿することからも、これら8つの分子は線虫においてもCOG複合体として機能し、DTC移動に関与していることが示唆された。

それではどの様にしてCOG複合体がDTC移動に関与するのだろうか。彼らは、MIG-23という分子に注目した。なぜなら、COG複合体の機能を欠損すると、ゴルジ体の況針譽織鵐僖質が不安定化されるという報告があったからである。MIG-23は況針譽織鵐僖質であると同時に、MIG-17の正常な糖鎖付加に必要であることを彼らは以前明らかにしていた。まず、COGC-3の局在を解析したところ、MIG-23と同様に、体壁筋細胞のゴルジ体に発現していることが分かった。そしてやはり、cogc-3およびcogc-1変異体では、MIG-23が不安定化し、発現量が低下していた。続いてMIG-17についても調べたところ、cogc-3およびcogc-1変異体では、MIG-17の糖鎖付加が不完全で、生殖巣基底膜への局在にも異常をきたしていることが明らかとなった。

これらの結果から彼らは、体壁筋細胞のゴルジ体においてCOG複合体がMIG-23を安定化し、このMIG-23によって糖鎖修飾を受けたMIG-17が生殖巣基底膜へと分泌され、そこで基底膜を再編成することでDTCの正常な移動を誘導する、というモデルを提唱している。これは小胞輸送に働くことが知られるCOG複合体の器官形態形成における役割を初めて明らかにした研究であり非常に興味深い。彼らのデータは、COGC-3が体壁筋細胞のみならず、他の多くの組織でも発現していることを示しており、線虫におけるCOG複合体の役割について更なる解明が待たれる。


掲載された論文 http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/133/2/263

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