独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2006年04月20日


微小管が細胞質分裂を誘導するメカニズム

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細胞分裂では、倍加した染色体が細胞の両極に分離し、それに続いて細胞質分裂が起こる。この両方のプロセスに重要な役割を果たすのが、チューブリンと呼ばれるタンパク質が構成する「微小管」である。細胞分裂期の微小管は二極性の紡錘体を形成し、赤道面に並んだ染色体を細胞の両極に引き寄せるとともに、細胞表層に作用して分離した染色体の間に「分裂溝」と呼ばれるくびれを誘導する。分裂溝は、アクチン繊維によって構成される「収縮環」の収縮によって形成され、最終的に細胞質が2つにくびれ分離する。これらの一連の過程が時空間的に厳密に連動することで、安定的な染色体の継承が実現している。

微小管が収縮環と分裂溝を誘導するメカニズムについては、これまで3つのモデルが提唱されていた。「赤道活性化(equatorial stimulation)」モデルでは、微小管が赤道面に作用して収縮環を能動的に誘導する。「極弛緩(polar relaxation)」モデルでは、微小管が細胞両極に作用し細胞表層を弛緩させることで、赤道面に分裂溝を生じさせる。そして「極抑制(polar inhibition)」モデルでは、微小管は分裂溝形成に抑制的に働いており、細胞表層への作用が赤道面で低下するために分裂溝が誘導される。これらのうちどのモデルが正しいのか。生細胞における微小管の動態と機能はこれまで十分に検討されておらず、その明確な答えは得られていなかった。

理研CDBの茂木文夫研究員(発生ゲノミクス研究チーム、杉本亜砂子チームリーダー)らは線虫をモデルにした研究で、紡錘体微小管が、細胞質分裂において2つの異なる役割を果たしていることを明らかにした。微小管は細胞質分裂の初期には収縮環を赤道面に誘導し、その後は赤道面以外での分裂溝形成を抑制しているという。ニューヨーク大学との共同研究で、Developmental Cell誌の4月号に発表された。

1細胞期の線虫胚における細胞質分裂の様子:(上)GFPによって可視化された細胞中心面の微小管。(下)GFPによって可視化された細胞表層のアクチン繊維。微小管が高密度になる赤道面に収縮環が形成されている。

彼らはまず、GFP融合タンパク質を用いたライブイメージングにより紡錘体微小管の細胞表層における動態を詳細に検討し、細胞分裂が進むにしたがって微小管が異なる挙動を示すことを明らかにした。収縮環が形成されるまでは、微小管は細胞表層に長く留まらず、伸び縮みを繰り返していることが観察された。これに対し、分裂溝が形成された以降は、より長い繊維状の構造として細胞表層に安定的に存在していた。また、細胞表層と作用する微小管は、収縮環が形成される時期に赤道面で最も高密度となり、収縮環の形成に必要なRHO-1とアクチン繊維の蓄積を誘導していることも明らかとなった。

続いて、収縮環形成の前後における微小管の機能をより詳細に調べるために、関連する遺伝子の同定を目指してスクリーニングを行った。その結果、γチューブリンをコードするtbg-1遺伝子、γチューブリンと相互作用するタンパク質をコードするgip-1遺伝子、オーロラAと呼ばれるキナーゼをコードするair-1遺伝子が浮かび上がった。RNAi法によって、これらの遺伝子の機能を抑制すると、それぞれ異なる表現型が観察された。tbg-1もしくはgip-1を抑制すると微小管は分裂溝の形成を阻害するのに対し、air-1を抑制した場合は、微小管は収縮環形成を誘導し、分裂溝も形成されることがわかった。

これらの研究結果は、微小管が細胞質分裂に2つの異なる機能をもち、細胞分裂の進行にともなって「赤道活性化」と「極抑制」の両方に寄与することを示している。「細胞質分裂のはじめには、微小管はγチューブリンのはたらきを介して赤道面に収縮環を積極的に誘導し、その後は、オーロラAキナーゼを介して赤道面以外の細胞表層で異所的な分裂溝の形成を防いでいるようだ」と杉本チームリーダーは話す。蛍光ライブイメージングとRNAi法によって先の3つのモデルを見直し、細胞質分裂における微小管の機能に新たなモデルを示したと言える。


掲載された論文 http://www.developmentalcell.com/content/article/abstract?uid=PIIS153458070600116X
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