独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2006年09月29日


悪性神経芽腫を誘導する遺伝子

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理研CDBの小林健一郎氏と江良択実研究員(幹細胞研究グループ、西川伸一グループディレクター)らは、ARID3Bと呼ばれる遺伝子が神経芽腫の形成と悪性化に重要な役割を果たしていることを明らかにした。神戸大学医学研究科との共同研究でCancer Research誌の9月号に発表された。

神経芽腫は幼児期にみられる最も一般的な腫瘍で、神経堤に由来する交感神経系などに異常を生じる。神経芽腫の約半分は転移しない孤立性の腫瘍で自然に退縮するが、他の半分は悪性で転移するため治療が難しい。MYCNと呼ばれる癌遺伝子が神経芽腫の形成に関与していると考えられているが、どうしてこのような違いが生じるのかは未解明のままだった。

西川グループは以前の研究で、ARID3Bを欠損すると神経堤の形成が著しく阻害されることから、この遺伝子が神経堤細胞の増殖と生存に必要であると予測していた。小林研究員らはこの知見を元に、神経堤細胞由来腫瘍の代表といえる神経芽腫の形成にARID3Bが関与する可能性を検討した。

胚性線維芽細胞(MEF)を用いてARID3Bの腫瘍化活性を検討した。ARID3BまたはMYCNのどちらか一方を発現させたMEFをマウスに移植しても腫瘍を形成しないのに対し(それぞれ左、中央)、両方を発現させたMEFを移植すると腫瘍を形成した(右)。写真はいずれも移植後7日目。

彼らがまず、ヒト神経芽腫から採られた5系統の培養細胞を調べたところ、発現量に差はあるものの、全ての系統でARID3BとMYCNが発現していた。一方、神経芽腫以外の腫瘍細胞では、8種類中2種類の細胞のみでARID3Bの発現が見られた。次に培養細胞ではなく、神経芽腫の臨床サンプルにおけるこれらの遺伝子発現を調べた。この解析には、マイクロアレイによって得られた様々な細胞の発現情報を保存してあるサイト「ArrayExpress」からデータを抽出し用いた。すると、調べた神経芽腫の約43%でARID3Bを発現しており、このうち約80%はステージ犬凌牲于蠎陲任△襪海箸分かった。また、MYCNはARID3Bを発現する全ての神経芽腫で発現していることも明らかとなった。

マウスではARID3Bを発現する組織は非常に限定されている。彼らがデータベースを用いてヒトの場合を調べると、多種多様な組織から採られた483のサンプルのうち、25サンプルのみでARID3Bを発現しており、このうちの11サンプルは神経芽腫であった。つまりヒトの場合においても、ARID3Bの発現は限定的であり、なかでもステージ犬凌牲于蠎陲貌丹枩が高いことが示された。続く研究では、ARID3Bのみが神経芽腫に特異的な遺伝子であるらしいことも分かった。

そこで彼らは、ARID3Bの実際の機能を調べるために、神経芽腫の培養細胞を用いてsiRNAおよびアンチセンスによる発現抑制を試みた。すると、5系統の細胞のうち1系統を除く全ての神経芽腫で増殖抑制が見られた。またある神経芽腫では、ARID3Bの過剰発現によって悪性度が上昇し、より高頻度に転移することも示された。次に、培養した胚性線維芽細胞を用いてARID3Bの腫瘍化活性を調べると、コントロールの細胞ではしだいに増殖能力が低下していくのに対し、ARID3Bを発現させた細胞は不死化することが分かった。また、ARID3Bに加えてMYCNを発現させると、線維芽細胞の増殖能は上昇し、さらに非接着性増殖能を獲得する、すなわち悪性化することが明らかとなった。これらのことから、ARID3Bは単独で細胞を不死化する活性をもつとともに、MYCNと共同で機能することで悪性化にも関与していることが示唆された。

ARID3Bの生理的機能は、発生中の神経堤細胞をアポトーシスから守ることであると考えられている。何を引き金にARID3Bの発現が異常となり、神経芽腫が形成されるのか、解明すべき謎は未だ多い。西川グループディレクターは、「ARID3Bはもともと神経堤の発生に異常を来たす遺伝子として同定された。今回、基礎発生学の成果を臨床へと橋渡しするために、マイクロアレイで得られた既存の臨床サンプルについてのデータベースが役に立つことを示せたのではないか」とコメントする。



掲載された論文 http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/content/abstract/66/17/8331

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