独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2006年10月04日


FezおよびFezlが間脳のパターニングを制御する

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理研CDBの平田務研究員、中澤祐人ジュニアリサーチアソシエート(ともに体軸形成研究チーム、日比正彦チームリーダー)らは、FezおよびFezlがコードする転写抑制因子が共同で働き、間脳のパターニングに機能していることを明らかにした。2つの遺伝子が間脳の前方において後方化を抑制し、前視床・視床・視蓋前野といった間脳の正常なパターニングを導いているという。変異マウス開発チーム、ボディプラン研究グループとの共同研究で、Development誌の10月号に掲載された。

発生中の哺乳類の前脳は、まず前方と後方の2つに領域化され、このうち後方は間脳と呼ばれ、さらに前視床・視床・視蓋前野の3つの領域に分割される。これら3つの領域を区別する遺伝子マーカーは既に多く同定されているが、そもそもどのようなメカニズムでこのパターニングが起きるのかは未解明のままだった。

前視床と視床はZLI(zona limitans intrathalamica)と呼ばれる境界によって区切られている。ZLIは前方化因子と後方化因子が交差し互いに抑制しあう領域に生じると考えられているが、そのような因子の本態は良くわかっていなかった。平田と中澤らは、FezまたはFezlを欠損したマウスは神経発生にさまざまな異常を生じるにもかかわらず、前脳にはほとんど影響がないことに疑問を抱いていた。そこで、これら2つの遺伝子を同時に欠損したマウスを作成し、前脳において重複的に機能している可能性を探った。

すると、FezおよびFezlを共に欠損したマウスでは、前視床やZLIの完全な欠損、視床の萎縮といった顕著な異常が見つかった。また間脳の各領域に対するマーカー遺伝子の発現にも異常がみられ、FezFezlが間脳のパターニングに共同で機能していることが示唆された。より初期の発生段階を観察すると、興味深いことに、将来の視床や視蓋前野に相当する間脳の後方が拡大していることが分かった。前方に特異的なマーカー遺伝子の発現が失われ、代わりに後方に特異的なはずのマーカーが前方へと拡大していたのだ。例えば、通常ならZLIの前方境界に位置するIrx1の発現が、より頭側へとシフトしていた。これらの結果は、FezFezlが、Irx1などの後方に発現する遺伝子に抑制的に働き、前視床領域の後方化を防いでいることを示唆している。FezFezlを異所的に発現させた実験でも、これを支持する結果が示された。

間脳後方でFezlを異所的に発現させると(左、venusで標識)、通常Gbx2を発現する視床(右)の形成が抑制される(中央)。

FezおよびFezlを共に欠損すると、間脳の全体の大きさには変化がなかったが、上述のように前後軸に沿った間脳パターニングに異常が認められた。これは、2つの遺伝子が間脳のパターニングの早い時期に、間脳前方(前視床)が間脳後方にならないように抑制しているためだと考えられる。また欠損マウスにおいて、間脳の後方領域が拡大するにもかかわらず出来上がった視床が小さくなっているのは、ZLIを失ったことによる二次的な影響だと彼らは考えている。ZLIが視床を誘導する活性を持つらしいからだ。

FezFezl自身の発現はどの様にコントロールされているのか。また、これらの遺伝子による後方マーカーの抑制は直接的なのか間接的なのか。幾つかの疑問が残るが、ニワトリ胚で進む脳パターニングの研究が、今後何らかのヒントを与えてくれるに違いない。日比チームリーダーは、「これまで、間脳の前後軸ができる分子機構は不明でした。今回のFezFezlが、遺伝学的に証明された初めての間脳パターニングの制御因子だと考えています。これらのコードする転写抑制因子の標的を探すことで、前脳形成のメカニズムがより深く理解できるようになると期待しています」と語る。



掲載された論文 http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/133/20/3993

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