独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2006年11月28日


Cv2がBMPシグナルを増強する

PDF Download

理研CDB細胞分化・器官発生研究グループ(笹井芳樹グループディレクター)の池谷真研究員らは、マウスの発生において、Cv2と呼ばれる遺伝子がBMPシグナルを局所的に増強していることを明らかにした。Cv2は、ショウジョウバエの肩横脈(cross-veins)の形成においてBMPシグナルを増強する遺伝子crossveinless2との相同性から名付けられたが、マウスの発生では、骨や軟骨、腎臓、眼など数多くの組織や器官の形成に機能していることが明らかとなった。

Cv2欠損マウスがBmp4遺伝子を1コピー欠損すると、椎骨や眼の発生異常が顕著になることから、Bmp4とCv2が協調的に機能していることが示された。さらに、この異常はBmp4遺伝子数の減少にしたがって顕著になった。

胚発生や形態形成に重要な影響を与えるシグナルの発現は、時期および部位特異的、そして量的にも厳密にコントロールされている必要がある。胚の腹側化に働くことが知られるBMP(bone morphogenic protein)もその一つだ。BMPシグナルは背側にも拡散するが、chordinなどのアンタゴニストによって異所的な機能発現が抑制されている。正の調節も同様に重要だ。ショウジョウバエでは、chordinのホモログであるSogがBMPシグナルを増強すると考えられているが、脊椎動物では未だ良く分かっていない。

今回の研究は、BMPの調節因子であるchordinやkielinに関連する遺伝子を探索するところから始まった。データベース検索によって幾つかの遺伝子が同定されたが、池谷らはそのうちの一つCv2に注目して研究を進めることにした。まず、ノックアウトマウスを作製してCv2欠損の影響を調べると、骨や軟骨などの形成に異常を来たし、生後間もなく致死となることがわかった。Cv2欠損マウスは脊椎や肋骨、頭蓋骨、四肢などの骨、咽頭や器官の軟骨が影響を受けていた。これらの異常は、Cv2の欠損によって硬節(体節から生じ椎骨を形成する細胞集団)に由来する前駆細胞の分化が妨げられていることを示唆していた。しかし、胚胴部における遺伝子発現をRT-PCRによって調べると、これらの影響は、単なるBmp遺伝子の発現低下によるものではないことがわかった。培養細胞を用いて詳細な解析を行うと、Cv2はBMP受容体もしくはそれより上流で機能しているようだった。

そこで池谷らは、Cv2とBMPシグナルの相互作用を調べるために、これらの遺伝子を一部または全部欠損する変異マウスを作製した。すると、Cv2欠損マウスは、Bmp4遺伝子を1コピー失うと、椎骨や眼の発生異常が強化されることがわかった。この結果は、Cv2とBmp4との間に協調的関係があることを示唆していた。

BMPは腎形成にも機能することが知られる。そこで彼らがCv2欠損マウスの腎臓についても調べると、正常なものに比べて小さく、腎糸球体の数も減少していることがわかった。正常な腎間充織ではCv2が強く発現していることからも、この遺伝子が腎形成に重要な機能を持つことが示唆された。また、Cv2に加えて、Cv2と構造的に類似するkielin-cordin関連分子Kcpを欠損させると、腎臓の異常がより顕著になることから、これらの遺伝子が協調的に働いていることが示唆された。しかし興味深いことに、Kcpの欠損はCv2欠損による骨関連の異常には影響を与えていなかった。

このようにCv2欠損による影響をさまざまな組織にわたって丹念に調べた結果、同じBMPが機能する発生プロセスでも、椎骨や眼、腎臓などは影響を受ける一方、一部の骨形成や神経管の背腹軸パターニングなどには影響がないことがわかった。この結果は、Cv2が特定の発生プロセスのみにおいてBMPシグナルを増強していることを示している。Cv2による部位特異的なBMPシグナルの増強がどのようなメカニズムによって実現しているのか、今後の解明が期待される。




掲載された論文 http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/dev.02647v1

[ お問合せ:独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター 広報国際化室 ]


Copyright (C) CENTER FOR DEVELOPMENTAL BIOLOGY All rights reserved.