独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2006年11月28日


FGFが血球分化を抑制する

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理研CDBの中澤文恵研究員およびテクニカルスタッフの永井宏樹氏(初期発生研究チーム、Guojun Shengチームリーダー)らは、FGFシグナルがニワトリの一次造血に抑制的に働いていることを明らかにした。中胚葉性の前駆細胞にFGFシグナルを過剰に与えると、血球細胞への分化が阻害され、血管内皮細胞に分化することなどがわかった。この研究成果は11月15日発行のBlood誌に発表され、同誌の表紙を飾った。

血球および血管内皮細胞のマーカー遺伝子Lmo2の発現パターン。FGFRの阻害剤(SU5402)で胚を処理すると血球のみでLmo2が発現することから(B)、コントロールでみられる血管内皮の形成(A)が阻害されていることがわかる。Aはコントロール。

羊膜類の血液形成には、大きく異なる2つのステップがある。発生初期に起こる造血は一次造血と呼ばれ、胚体外中胚葉に散在する血島(細胞塊)が一時的な血液形成の場となる。発生が進むと胚体内に造血組織がつくられ、生涯にわたって血液を供給する二次造血が開始する。血島を構成する細胞は比較的未分化で、血球だけでなく、血管の内張りとなる内皮細胞にも分化することが知られる。血球か血管内皮か――。この運命選択には数多くのシグナル分子が関与するが、そのメカニズムの詳細は未解明のままだ。Shengチームは今回、FGF(Fibroblast growth factor)と呼ばれるシグナル分子に注目して研究を進めてきた。

彼らはまず、化学的染色に変わる新たな血球検出法を確立した。この方法では、グロビン遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーションによって検出し、胚における血球形成を感度良く可視化することができる。そこで、微小なビーズに様々なシグナル分子を結合させ、将来グロビンを発現する胚の領域に埋め込む実験を行った。その結果、FGFを結合させた場合、内皮マーカー群の発現に変化はないものの、グロビンの発現が強く抑制されることが分かった。逆にFGFシグナルの阻害剤を与えると、異所的な血球形成が起こり、血管内皮細胞の形成は阻害された。また、ニワトリがもつ4種類のFGF受容体(FGFR)について血島での発現パターンを比較すると、FGFR2が血管内皮細胞に発現し、血球には発現していないことが分かった。

次に彼らは、エレクトロポレーション法によって恒常活性型のFGFR2を胚体外中胚葉に発現させる実験を行った。すると、コントロールでは、血球細胞、血管内皮細胞、その他の細胞が均等に形成されるのに対し、FGFR2を過剰発現させた場合には、グロビンを発現する血球細胞が3%以下にまで減少し、内皮細胞が80%以上を占めていた。また、アンチセンスモルフォリノオリゴによって内在性のFGFR2を特異的に阻害すると、逆の効果がみられた。

これらの結果から、FGFR2を介したシグナルが、胚体外中胚葉における血球・血管内皮間の運命選択に関与していることが示された。

続いて彼らは、FGFR2を介したシグナル経路が他の分子とどのように関連しているのかを調べた。まず、血球と内皮の発生に関わることが知られるVEGFシグナルを阻害してみたが、グロビンや内皮マーカーの発現に大きな影響はみられなかった。一方、FGF4を結合させたビーズを胚に埋め込むと、その部位ではGata1の発現が低下することが分かった。Gata1は血液の発生においてグロビンの発現を誘導すると予測されることから、彼らの結果は、FGFシグナルがGata1の抑制を介して血液分化を抑制している可能性を示唆している。実際に、FGFシグナルを阻害した胚ではGata1の発現が上昇し、その発現パターンはグロビンの発現パターンに対応していた。

Shengチームリーダーは、「そもそも血島がどのように形成され、そこから分化する内皮細胞が(同じ胚体外中胚葉に由来する)平滑筋の分化とどのようにリンクしているのかはまだ分かっていない」と話す。「どれだけの血島細胞が未分化状態を維持しているのか、それは、私たちにとっても幹細胞研究者にとっても非常に興味深い問題です」。




掲載された論文 http://www.bloodjournal.org/cgi/content/abstract/108/10/3335

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