独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2007年3月28日


血液は体の外からやってきた

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血液の発生起源を辿るとどこに行き着くのか――。これは長い間研究者の間で意見の分かれる問題だった。

造血には2つの段階が知られ、一つは、発生初期に胚体外の卵黄嚢と呼ばれる組織で起こり、胚に一時的に血液を供給する「一次造血」、もう一つは、胚のAGM(aorta-gonad-mesonephros)と呼ばれる組織で起こり、生涯にわたって血液を供給する「二次造血」だ。しかし、二次造血を行う細胞がどこから来たのか、さらに言えば、卵黄嚢に由来するのか否かは、これまで明らかでなかった。血液形成のメカニズムを突き止めることは、発生生物学的に重要であると同時に、造血幹細胞の誘導法確立や試験管内造血といった応用の可能性も秘めている。

理研CDBのIgor Samokhvalov研究員(幹細胞研究グループ、西川伸一グループディレクター)らは、マウス胚を用いて生体内の細胞を追跡する実験を行い、卵黄嚢にある造血細胞が二次造血にも寄与していることを明らかにした。近年のin vitro(試験管内)研究では、二次造血は一次造血と独立して起こることが示されていたが、それを覆す結果となった。この研究は、英国の科学誌Natureに3月21日付けでオンライン先行発表された。

E10.5マウス胚における卵黄嚢由来細胞の分布(Runx-1の発現をX-galで検出)、左はコントロール。

彼らは、卵黄嚢に存在する造血幹細胞を、時期および位置特異的に標識する方法を用いて実験を行った。「生体内の細胞を、非侵襲的に、かつ長期にわたって追跡できたことが重要だ」、とSamokhvalov研究員は話す。「一部の細胞や組織を取り出して解析するin vitro研究では、実験上の利点はあるものの、結局のところ実際の胚の中で何が起きているのかは証明できない」。

彼らの結果は、卵黄嚢にある造血細胞の一部が胚そのものへと移動していることを示していた。Samokhvalov研究員は、「発生9.5日目頃には細胞運命が決定しているようだ。一部の細胞は胚の血管内皮へ移動して造血幹細胞として働き、別の細胞は肝臓へと移動して赤血球を形成する。各部位にたどり着く頃には完全に運命が決まっているはずだ」、と説明する。卵黄嚢に由来する造血細胞が、二次造血において赤血球および白血球の両方を形成することが示されたが、一方で、卵黄嚢の血管形成には寄与していないことがわかった。この結果は、内皮系と血液系への分化が、こまで考えられていたより早い段階で起きていることを示唆していた。

今回の研究は、卵黄嚢にある一次造血細胞が、胚における後の二次造血にも寄与していることを明らかにした。「卵黄嚢の造血細胞が二次造血に機能していることは確かだ。現時点であまり定量的な結論はできないが、フローサイトメトリーによる解析結果は、成体における血液前駆細胞の10%近くが一次造血細胞に由来することを示唆していた」、とSamokhvalov研究員。「そもそも、今回の方法でどれだけの一次造血細胞を標識できているか分からず、二次造血への寄与はもっと大きいかもしれない」。




掲載された論文 http://www.nature.com/nature/journal/v446/n7139/abs/nature05725.html

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