独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2007年6月20日


ショウジョウバエの新規時計遺伝子「時計じかけのオレンジ」を発見

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体内時計システムはバクテリアからハエ、マウス、ヒトにいたるまで多様な生物種に保存されている。哺乳類の場合、脳の視交差上核などが刻む約24時間周期のリズムに従って、睡眠や覚醒、血圧・体温の変動、ホルモン分泌などの生理機能がコントロールされている。この体内時計のリズムを生み出しているのは、複雑な転写ネットワークが生み出す周期的な遺伝子発現だ。理研CDBの上田泰己チームリーダー(システムバイオロジー研究チーム)らは、マウスをモデルにした以前の研究で、この転写ネットワークを構成する約20個の時計遺伝子と3つの転写制御配列を同定していた。なかでも朝の転写を活性化するE-box/E’-box(朝配列)は中心的な役割を担い、この配列の機能を阻害すると、体内時計が大きく乱れることを見出していた。

今回、理研CDBの鵜飼-蓼沼磨貴テクニカルスタッフ、山田陸裕リサーチアソシエイト(システムバイオロジー研究チーム、上田泰己チームリーダー)らは、ショウジョウバエをモデルにした研究で、転写因子をコードする新規の時計遺伝子「時計じかけのオレンジ(clockwork orange)」を同定した。この遺伝子を抑制すると他の時計遺伝子の発現も乱れ、24時間周期の行動パターンに異常が生じることがわかった。この成果は、九州大学、国立遺伝学研究所、テキサス農工大学との共同研究によるもので、Genes & Development誌に6月19日付けでオンライン先行発表された。

野生型(上)およびcwo変異体(下)ショウジョウバエの行動パターン。黒い部分は活動が観察された時間帯を示す(横軸は時間)。野生型では12時間周期の明暗条件下(LD)および恒暗条件下(DD)のいずれにおいても、日出、日没に対応する時間帯に活動が活発になる24時間周期を示す。cwoの発現を抑制した変異体では、行動リズムの周期が、24時間よりも大幅に長くなる異常が見られた。

彼らは、複雑な哺乳類の体内時計を理解するために、よりシンプルな構造を持つショウジョウバエの体内時計をモデルに実験を行った。両者の体内時計システムは共通の起源を持つと考えられ、しかも、遺伝学の発展したショウジョウバエには実験上のさまざまな利点があるからだ。

まず、DNAマイクロアレイによるゲノムワイドな発現解析を行い、ショウジョウバエの持つ約14,000の遺伝子のなかから、頭部において24時間周期で発現している遺伝子を200個ほど見出した。続いて、この中から体内時計システムでより中心的な役割を果たす遺伝子を同定するために、in vivo RNAi法を行った。この方法では、成体内において特定の遺伝子を組織特異的に抑制することができる。200個の遺伝子それぞれについて時計組織を狙った機能抑制を試み、実験が成功した137個の遺伝子についてショウジョウバエの行動リズムを観察したところ、5つの遺伝子において活動周期の顕著な延長が見られた。なかでも体内時計への影響が最も大きかったのは、Orangeドメインと呼ばれる領域を持つ転写因子だった。そこで彼らは、この遺伝子を、1971年にスタンリー・キューブリックがアンソニー・バージェスの小説を映画化した「A Clockwork Orange」に因んで、「時計じかけのオレンジ(cwo; clockwork orange)」と名付けることにした。

次に、転写因子CWOの具体的な機能を探るために、そのターゲット配列を探索することにした。この実験には、ChIP on chip法を用いた。転写因子に結合する染色体由来のDNA断片をChIP法で単離し、さらに、そのDNA断片をマイクロアレイ(DNA chip)で解析することによって、転写因子の結合領域をゲノムワイドに調べることができる。その結果、CWOは体内時計の転写ネットワークのなかでも重要な役割を担うE-boxに結合することが明らかとなった。

さらなる解析から、CWOは自分自身を含む複数の時計遺伝子の発現を抑制していることがわかった。また、cwoを欠損すると、24時間周期で変動する時計遺伝子の発現量の極大値と極小値の差が、正常の半分程度まで小さくなっていた。この結果は、cwoの欠損によって標的遺伝子の発現が十分に抑制されないために極小値が上がり、その間接的な影響によって極大値も下がっていることを示唆していた。

これらの結果から、ショウジョウバエにおける新規の時計遺伝子cwoは、他の時計遺伝子と密接な関係を持ち、体内時計システムの中で重要な役割を担っていることが明らかとなった。DNAマイクロアレイ、in vivo RNAi、ChIP on chipといった先端技術を駆使したゲノムワイドな解析が可能にした成果と言えるだろう。上田チームリーダーは、「引き続き研究を重ねる必要がありますが、体内時計システムの完全な理解に向けて一歩前進することが出来ました。cwoと似た遺伝子はヒトでも見つかっており、将来のヒト体内時計の解明にもつながると思います」と話す。




掲載された論文 http://www.genesdev.org/cgi/content/abstract/gad.1552207v1

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