独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2007年8月16日


グロビン遺伝子の転写メカニズムに新たな知見

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グロビンは体内で酸素運搬を担う重要なタンパク質で、その遺伝子は生物種を超えて高度に保存されている。脊椎動物の赤血球では、αおよびβグロビンがヘモグロビン複合体を形成し、間に挟まれたヘム鉄が効率的に酸素と結合、解離する。ヒトの場合、5つのβグロビン遺伝子が存在し、これらは胚、胎児、成体といった発生時期に応じて順々に発現する。また、興味深いことに、これらのβグロビン遺伝子は染色体上のある遺伝子座に、発現順序に従って配置している。一方、ニワトリでは4つのβグロビン遺伝子、ρ(ロー)、βH(ベータHatching)、βA(ベータAdult)、ε(イプシロン)が同じ遺伝子座に乗っているが、遺伝子の配置と発現順序に関係性は見られない。このうち、βHとβAを挟むように配置したρとεは、最初の造血である一次造血期に発現するが、これらの発現がどのようにコントロールされているのかは定かでなかった。

今回、初期発生研究チームのGuojun Shengチームリーダーと永井宏樹テクニカルスタッフは、ニワトリ胚をモデルにした研究で、ρおよびεグロビン遺伝子が協調的にシスに共転写されることを明らかにした。マウスの研究では、これらのグロビン遺伝子は順々に転写され、同時には発現しないことが報告されている。今回の研究は、グロビン遺伝子の転写様式に新たなモデルを示したと言える。この成果は、科学誌PLoS Oneに8月8日付で発表された。

FISH法によりρ(緑)とε(赤)の一次転写物を二重染色すると、同一染色体上で両者が共局在しているパターンが80%以上の確率で見られた。



彼らはまず、in situ hybridization法により、ニワトリ初期胚の一次造血期の血球におけるρおよびε遺伝子の転写の様子を調べた。すると、どの染色体上でも、転写の“on”と“off”は同様に起こっていると推定された。続いて、FISH(fluorescent in situ hybridization)法によって、同じ染色体上に位置するρおよびε遺伝子の転写活性について詳しく解析すると、ρもしくはεが転写されている遺伝子座では、80%以上の確率でもう一方の遺伝子も共転写されていた。Shengチームリーダーは、「これらの結果から、ほとんどの一次造血期の血球において、同じ遺伝子座からρとεが同時に発現しているのは明らかだった」と話す。

この結果は、長い間一般的だった「βグロビン遺伝子は同時に発現せず順々に発現し、発生ステージに見合った酸素親和性のグロビンタンパク質がつくられる」という説が、常に正しいわけではないことを示している。また、グロビン遺伝子は同じ遺伝子座からの複数遺伝子の転写を研究するモデルとされてきたが、今回の共発現のメカニズムについてもより詳細に検証する必要がある。

「転写の様子を詳しく見ていると、正確な意味で遺伝子がいつONになったと言えるのか、改めて考えさせられる」とShengチームリーダーは話す。「一般的にONと言われる状態は、突然訪れるわけではなく、複数の因子が累積的に作用した結果と言える。ある遺伝子座において必要な全ての転写因子が揃った後に何が起きるのか。まだ解明されていないキーステップが幾つかあるのかも知れない」。




掲載された論文 http://www.plosone.org/article/fetchArticle.action?articleURI=info:doi/10.1371/journal.pone.0000703#top

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