独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2007年12月27日


微小管結合タンパク質RMD-1が染色体分離に働く

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細胞分裂は最も本質的な生命現象の一つだ。細胞は分裂によって増殖し、多細胞生物ではさらに組織や個体をつくりあげる。細胞が自らと同じコピーをつくるためには、まず核にあるDNAを正確に複製する必要がある。複製されたDNAは染色体と呼ばれる構造に凝集し、細胞の両極へと引き寄せられ、等分される。この際、細胞内には微小管と呼ばれるタンパク質が紡錘体を形成し、染色体はこの紡錘体に結合することで両極へと分離する。等分された染色体は再び核に包まれて脱凝集し、続いて細胞質も二分されて分裂が完了する。このように、遺伝情報が娘細胞に正確に受け継がれるためには、倍加した染色体が両極へと正確に分離する必要がある。しかし、その正確性を担保するメカニズムについては未解明な点が多い。

理研CDBの大石久美子研究員(細胞運命研究チーム、澤斉チームリーダー)らは線虫C.elegansをモデルにした研究で、RMD-1と呼ばれるタンパク質が、染色体と微小管の誤った結合を抑制し、正常な染色体分離を導いていることを明らかにした。ヒトにも同様のタンパク質が確認され、同じメカニズムが広く動物に保存されている可能性があるという。この研究は慶応大学との共同で行われ、The journal of cell biology誌に12月10日付けでオンライン先行発表された。

野生型(左)とrmd-1変異体(右)の第1分裂後期。微小管(緑)、動原体タンパク質(MCAK、赤)およびDNA(青)の三重染色像。微小管と動原体の異常結合による染色体分離異常が観察される。

rmd-1 (regulator of microtubule dynamics-1)は、尾部の細胞を欠損する変異体の原因遺伝子として、2000年に澤らによって発見されていた。彼らは今回、DNAライブラリーを用いた変異復帰スクリーニングを行い、rmd-1のコード領域を特定した。すると、RMD-1は293個のアミノ酸からなる新規のタンパク質であり、線虫のゲノム内に相同性の高い関連遺伝子が5つあることや、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル、ヒトにも相同遺伝子があることが示された。

次に、線虫の初期胚におけるRMD-1の局在を調べたところ、第一分裂を通してチューブリン(微小管をつくるタンパク質)と共局在していることがわかった。より詳しく観察すると、分裂の中期と後期には、紡錘体と紡錘体極に局在していた。そこで、RMD-1とチューブリンの結合を調べると、これらのタンパク質は直接的に結合していることが示された。また、ヒトのRMD-1(hRMD-1)も、培養細胞において同様の局在を示すことがわかった。

続いて彼らは、rmd-1の機能を調べるために、RNAiによる発現抑制実験を行った。すると、rmd-1を欠損する細胞では、紡錘体の配向や極体の放出、染色体の分離などに異常がみられた。染色体の分離異常についてより詳しく解析すると、分裂中期に染色体が赤道面に正しく配列しない、分裂後期に染色体が両極へ分離せず引っ張られたような形になる、などの異常が観察された。一方で、減数分裂に異常は見られず、rmd-1欠損による染色体の分離異常は、有糸分裂に限定的であることがわかった。

このような表現型から、彼らは染色体と微小管の異常な結合を疑った。そこで、微小管と動原体(染色体の微小管結合部位)の2重染色を行い、両者の動態を詳しく観察することにした。その結果、rmd-1を欠損する細胞では、1つの動原体に両極の紡錘体極から伸びる微小管が結合している(merotelic attachment)ことが明らかとなった。通常であれば、1つの染色体には一方からの微小管のみが結合するところが、両極から引っ張られるために、上のような異常を示すことが強く示唆された。

次に彼らは、染色体と微小管の誤った結合を不安定化することが知られるauroraBキナーゼとrmd-1との相互作用について調べた。これまでに、auroraBの線虫ホモログであるair-2の変異体においても、染色体が側方向に引っ張られた形になるなど、rmd-1欠損の場合と同様の異常が報告されている。そこで、AIR-2とRMD-1の相互作用をin vitroで解析したところ、これらの分子は直接結合することが示された。

彼らはまた、rmd-1の機能と微小管の動態との関連についても調べた。その結果、rmd-1欠損体では微小管の重合に若干の遅延がみられた。しかし、より重度の遅延がみられるzyg-9変異体では染色体の分離に異常がみられないことから、rmd-1欠損株における染色体分離の異常は、微小管の重合遅延に起因するものではないことが示唆された。また、rmd-1欠損体では、紡錘体極の分離遅延や、紡錘体の配向異常などもみられた。このうち前者は、染色体と微小管の異常結合、すなわちmerotelic attachmentに起因しているようだった。

これらの結果から、RMD-1はaurora-Bキナーゼを介して、染色体と微小管との異常な結合を不安定化し、正常な染色体分離を導いていることが強く示唆された。しかしながら、RMD-1は現在までに知られている微小管結合ドメインをもっていない。また、線虫がもつ他のrmd-1関連遺伝子が何をしているのか、染色体の分離異常と細胞欠損とがどのように関連しているのかなど、更なる解析が求められる。大石研究員は、「ヒトを含む他の動物にもrmd-1と類似の遺伝子があることが示唆されました。今回の研究が、染色体分離の正確性を裏付ける、進化的に保存されたメカニズムの解明につながれば嬉しいです。また、微小管が担う細胞現象についてより理解が進むことを期待します」、と話す。


掲載された論文 http://www.jcb.org/cgi/content/abstract/179/6/1149

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