独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2008年3月5日


極細胞質の構築にエンドサイトーシスが関与

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ショウジョウバエの卵細胞には前後軸に沿った極性があり、RNAやタンパク質の局在に明らかな偏りが見られる。後極には極細胞質という特徴的な領域があり、この部分を受け継いだ細胞が将来生殖細胞へと分化していく。極細胞質の構築には、やはり後極に局在するOskar(Osk)タンパク質が必要とされる。osk mRNAからは2つのアイソフォーム、short Oskとlong Oskが翻訳されるが、前者は極細胞質因子の集合に働き、後者はそれらを細胞皮質に繋ぎ止める役割を果たす。極細胞質と細胞皮質との連結はアクチン骨格を介したものだが、それがどのようなメカニズムによって制御されているのかは明らかでない。

理研CDBの田中翼研究員(生殖系列研究チーム、中村輝チームリーダー)らは、これまで予測されていなかったOskarとエンドサイトーシス経路との関連性を明らかにした。エンドソームタンパク質であるRabenosyn-5がOskarの下流で機能し、極細胞質の構築に決定的な役割を果たしているという。この研究成果はDevelopment誌の3月号に掲載された。

野生型およびrbsn-5変異体におけるFアクチンの様子。Oskを前極で異所的に発現させると、野生型の卵細胞では長いFアクチンが皮層付近で形成される(中央)のに対し、rbsn-5変異体ではFアクチンが大きな凝集体を形成してしまう(右)。

彼らはまず、極細胞質の形成に異常を示す変異体のスクリーニングを行ない、マウスでエンドサイトーシス(細胞膜の陥入と胞形成によって細胞外から細胞内に物質が取り込まれる現象)に働くタンパク質Rabenosyn-5 (Rbsn-5)のホモログを同定した。そこで、同じく極細胞質の形成に働くOskとの関連を調べたところ、rbsn-5変異体においてもosk RNAは後極に局在していたが、蓄積が不安定で発生が進むにつれその局在は減少した。通常、osk RNAは細胞極性に従って配置された微小管によって後極に運ばれるが、rbsn-5変異体では、微小管の極性は確立されるものの、それが維持されないことがわかった。これらの結果は、Rbsn-5がosk RNAを後極に運ぶことによって極細胞質形成に関与していることを示していた。ところが興味深いことに、Rbsn-5とOskは卵細胞において共局在していることがわかり、Rbsn-5にはさらなる機能があるように思われた。

マウスなど他の生物種において、Rbsn-5はエンドソーム(エンドサイトーシスにおける膜小胞)に局在している。そこで田中らは、ショウジョウバエの他のエンドソームタンパク質についても調べたところ、それらは皆、Rbsn-5やOskと同様に後極に局在していることがわかった。Oskを欠損する変異体の卵細胞では、エンドソームは一時的に後極に局在するが、その後局在が失われることがわかり、エンドサイトーシスの極性維持がOskに依存していることが示唆された。(エンドサイトーシスの極性確立には、より初期に機能する極性因子Gurkenが関与していた。)

次に彼らが、Oskを前極で異所的に発現させたところ、エンドソームタンパク質が前極に集合し、エンドサイトーシスが活発化していることがわかった。さらに、long Oskとshort Oskを別々に発現させたところ、long Oskのみにエンドサイトーシスの誘導機能があることが明らかになった。

long Oskが後極において極細胞質を細胞皮質に繋ぎ止めることは以前から報告されていた。そこで彼らは、このプロセスにRbsn-5がどのように関与しているのかを調べることにした。rbsn-5変異体においてOskを前極に発現させたところ、Oskや他の極細胞質因子の細胞皮質への結合は弱まり、細胞質に拡散してしまうことが明らかになった。正常な卵細胞では両極の皮質に長いFアクチンの形成がみられるが、これはOskによって誘導されている。そこで田中らが、Oskを前極に発現させたrbsn-5変異体におけるFアクチンの局在を調べたところ、前極付近でFアクチンの大きな凝集体が形成され、極細胞質因子と共に細胞質に拡散してしまうことがわかった。

これらの結果を総合すると、long Oskがエンドサイトーシスを引き起こすことでFアクチンの正しい配置が導かれ、それによって極細胞質因子と細胞皮質が正常に連結されることを示唆している。中村チームリーダーは、「今回の研究では遺伝学的手法により、エンドサイトーシスの経路がlong Oskの下流で機能し、極細胞質因子の繋ぎ止めに働いていることが明らかになりました。しかし、極細胞質の形成をより詳しく理解するためには、long Oskがエンドサイトーシスを誘導する仕組みを分子レベルで明らかにしていく必要があります」とコメントする。


掲載された論文 http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/135/6/1107
 
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