独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2008年3月26日


季節性の分野にも春がきた

PDF Download

先進国に住む我々は季節感を失いつつある。しかし、自然界では春には桜が咲き夏には蝉が鳴くように、生物は季節に寄り添って活動を変化させる。脊椎動物も同じだ。熊の冬眠、鳥の渡り、そして繁殖行動に見られるように、食料や気候の変化に合わせた活動が彼らの生存にとって必須だ。このような動物の行動の季節変化はアリストテレスの時代に詳しく記述されているが、動物がいかに環境の変化を感知し、活動を適応させているのかは謎のままだ。

理研CDB機能ゲノミクスユニット(上田泰己ユニットリーダー)の粕川雄也研究員らは名古屋大学吉村研究グループなどとの共同研究で「春ホルモン」を同定し、脊椎動物が日照条件を感知して繁殖行動を導く仕組みを明らかにした。春の長日条件になると脳下垂体隆起葉から「春ホルモン」として甲状腺刺激ホルモンが分泌され、これが引き金となって生殖腺の発達が促されるという。この研究はNatureに3月20日付けでオンライン先行発表された。

(A)多くの生物が日長(一日の光の長さ)を認識し、季節に合わせて活動を変化させる。(B)今回の研究に使われたウズラ。ウズラは日本を代表する家禽の一種で、鋭敏な季節適応能力をもつ。(C)ウズラを長日条件に移すと、最初の夜明けから約14時間後にTSHの発現誘導がみられた。

彼らはウズラとDNAマイクロアレイを組み合わせることで今回の研究を可能にした。鳥類は空を飛ぶために可能な限り体を軽量化し、生殖腺も必要な時期だけに発達させるなど、極めて洗練された季節適応能力をもつ。ウズラJapanese quail (Coturnix japonica)は室町時代に家禽化された日本を代表する鳥の一種で、やはり鋭敏な季節適応能力をもつ。

彼らはまず、短日条件(冬の光条件)で飼育したウズラを長日条件(春の光条件)に移し、それに伴って脳に生じる遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイによって包括的に解析した。その結果、約3万個の遺伝子の中から日長に影響を受ける遺伝子が約300個同定され、最も初期に発現誘導されるものとして甲状腺刺激ホルモン(TSH)が浮かび上がった。3万個の遺伝子の発現から特徴的な発現パターンを持つ遺伝子を抽出する際に機能ゲノミクスユニットのバイオインフォマティクス技術が必須の役割を果たした。

さらに詳しく調べると、TSHは脳下垂体の隆起葉と呼ばれる部分で発現誘導を受け、視床下部に発現する甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)に結合することが明らかとなった。名古屋大の吉村崇准教授らは以前の研究で、視床下部に発現する2型脱ヨウ素酵素(DIO2)が生殖腺の発達を誘導することを示していた。そこで、TSHとの関係を調べたところ、TSHによってDIO2が誘導されていることが明らかとになった。さらに、短日条件で飼育したウズラの脳室内にTSHを投与すると、視床下部におけるDIO2の発現と生殖腺の発達が誘導されることも示された。

脳下垂体は視床下部の下に位置する内分泌器官で、前葉・中葉・後葉・隆起葉に分かれるが、これまで隆起葉の機能は謎のままだった。今回の研究は、隆起葉が長日条件を感知して視床下部に春を告げ、生殖腺の発達を促すという極めて重要な知見をもたらした。また、TSHは甲状腺に作用して体温調整や代謝活動の制御に働くことが知られていたが、これに全く新たな機能が加わったことになる。今後、動物が季節を感知するメカニズムの研究が進めば、家畜や家禽の繁殖制御、人の季節性感情障害の研究などにも繋がると期待される。

(名古屋大学プレスリリースより編集)


名古屋大学プレスリリース

http://www.nagoya-u.ac.jp/info/research_news/080321_agr.pdf

掲載された論文 http://www.nature.com/nature/journal/v452/n7185/abs/ nature06738.html;jsessionid=A7C944A6B5F7A378A9BD4E362B3A4D1A
 
[ :お問合せ:独立行政法人: 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター 広報国際化室 ]

Copyright (C) CENTER FOR DEVELOPMENTAL BIOLOGY All rights reserved.