独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2010年7月28日

中胚葉前駆細胞における遺伝子発現の全容が明らかに
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内、中、外の3つの胚葉のうち、中胚葉は筋肉や骨、軟骨、生殖系列など、幅広い種類の細胞を生み出す。2つの主要な羊膜類である鳥類と哺乳類では、中胚葉は外胚葉の一部から細長い「原条」と呼ばれる構造として生じる。原条の細胞は前後軸に沿った位置によってその性質が決定され、一般的に、前側の細胞は背側の組織を形成し、後側の細胞は腹側の組織を形成することが知られる。しかし、この原条における前後軸に沿った運命決定の分子メカニズムは未解明な点が多い。

理研CDBのCantas Alev研究員(初期発生研究チーム、Guojun Shengチームリーダー)らは機能ゲノミクス研究ユニット(上田泰己ユニットリーダー)および幹細胞研究グループ(西川伸一グループディレクター)との共同研究で、DNAチップを用いて原条のトランスクリプトーム解析を行ない、中胚葉における背腹軸決定について新たな知見をもたらした。この研究で得られた包括的な発現データは、羊膜類の中胚葉分化を研究するための重要な資源にもなる。この成果はDevelopment誌に7月28日付けでオンライン先行発表された。



原条の中胚葉前駆細胞は、前後軸に沿った位置によって異なる誘導を受ける。写真は原条全体で発現するBrachyury(左)と、前側で発現するChordin(中央)、後側で発現するCdx1(右)。


彼らはまず、250個を超すニワトリ胚から原条全体を長方形に切り出し、さらにそれを前後軸と直交するように切断し、4つの均等な断片に分割した。それぞれの断片からRNAを抽出し、DNAチップを用いて約22,000の遺伝子を対象に発現解析を行なった。すると、ニワトリゲノムがもつ全遺伝子の約40パーセントが原条全体で発現していたが、一方で、前後軸に沿って異なる発現を示す遺伝子も数多く見つかった。そこで、標準化された遺伝子オントロジーの分類に帰属できる全ての遺伝子について解析を進めた。

その結果、解析した遺伝子の約14パーセントは、その発現位置の組み合わせによって、[1, 0, 0, 0]あるいは[0, 0, 0, 1]といったように6つのクラスターにグループ分けできることが分かった。このうち発現が背側(前側)に偏っているものをグループA、腹側(後側)に偏っているものをグループDとした。すると、転写調節に関わる遺伝子群はグループDに、レセプターを介したシグナル伝達に関わる遺伝子群はグループAに属する傾向が見出された。彼らは胚発生の際に主要な機能を果たす3つのシグナル経路、Wnt、TGFβ/BMP、FGFについても解析したが、これらの経路を構成する主要な因子はいずれも背腹軸に沿ってほぼ均一に発現していることが分かった。一方、これらの経路を調節する因子は、多くの場合、背側あるいは腹側に偏った発現を示していた。これらの結果は、背腹軸の形成が複雑で多層的な遺伝子ネットワークによって制御されていることを示唆していた。

Shengチームリーダーは、「発生学者にとっても幹細胞研究者にとっても、一見シンプルな原条は非常に興味をそそる研究対象です。私たちが今回得た結果は、生体内における複雑な分子レベルの現象をより良く理解するための材料になると思います。そのような理解が、応用分野における中胚葉系細胞の人為的な誘導にも役立つと期待しています」と語った。

 
掲載された論文

http://dev.biologists.org/content/137/17/2863.abstract

 


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