独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2011年1月4日


トリ初期胚の長期培養が可能な新たな方法
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鳥類の胚は、細胞標識や組織移植といった様々な実験手法を適用できることから、昔も今も発生研究の重要なモデルである。しかし発生初期については卵殻内での実験が難しく、胚を摘出して培養する必要がある。これまでにトリ胚の培養法が多く開発されてきたが、培養できる期間が短く、それゆえ研究対象となる発生ステージが限定されるという問題を抱えていた。

理研CDBの永井宏樹テクニカルスタッフ(初期発生研究チーム、Guojun Shengチームリーダー)らは既存の培養方法を改良し、ニワトリとウズラの初期胚をより簡便かつ長期間培養できる方法を開発した。この成果はGenesis誌に1月3日付けでオンライン先行発表された。



MC法による培養。(左)卵黄膜から丁寧に剥がした胚を原条に沿って半月型に折り、縁を密着させて袋状にする。(右)これを液体培地の中に静置すると培養液が取り込まれて風船のように膨らみ、胚が正常に発生する。


これまでにニワトリ初期胚の主な培養法として、New法、EC法、そして今回彼らが改良したコーニッシュパイ法(Cornish Pasty法)が開発されていた。コーニッシュパイ法は、卵黄膜を切り除いた胚を、イギリスの伝統料理コーニッシュパイそっくりの半月型に折って培養することから、その名前がつけられた。これらの方法にはそれぞれ利点があるが、最長でも発生ステージ16(HamburgerとHamiltonが定めたニワトリの発生ステージ)までしか正常に培養できなかった。

今回彼らが開発したMC法(Modified Cornish Pasty法)では、ニワトリとウズラの胚をステージ3から少なくともステージ18まで正常に培養することが可能になった。彼らが改良したのは主に2点。一つは用いる液体培地の組成で、もう一つは培養器を回転ボトルから培養皿に換え、回転培養をやめた。まず、ステージ3〜4の胚を卵黄膜から丁寧に剥がし、原条(Primitive streak)に沿って半月型に折り、縁を密着させて袋状にする。これを液体培地の中に静置すると、約24時間以内に培養液が取り込まれて風船のように膨らむ。これにより、正常な発生に必要な張力が胚に維持される。なお、膨らんだものは培地の表面に浮いてくるため、培養が成功しているものを簡便に見分けることができる。この方法で培養すると、培養1日目までは形態、速度とも正常に発生し、2日目以降は発生速度が徐々に遅延するものの、形態はステージ18まで正常に発生した。また、頭部に限ればステージ18以降もしばらくの間は正常に発生が進んだ。

このMC法で培養する胚に対し、エレクトロポレーション法によるGFP(Green Fluorescent Protein)の導入を行ったところ、正常な発現が観察され、通常の培養法と同様に細胞標識が行えることが分かった。さらに、並体結合(parabiosis)と呼ばれる2つの胚を接合して培養する実験手技も適用できることが分かった。ニワトリとウズラの並体結合も可能で、これらの手法は血液系の発生研究に有用である。これらの結果は、MC法がこれまでの培養法と同様にニワトリ実験に適用できることを示していた。



MC培養法と並体結合を組み合わせ、2日培養した双子胚。左側の胚の血管内に蛍光物質を注入すると血流にのって拡散し、血管系が可視化される。右側の胚の血管系も光ることから、2つの胚の血管系が融合していることが分かる。


血管系や頭部、肢芽の顕著な発達はステージ18頃に起こるため、このステージまで培養可能になったことの意義は大きい。また、今回の方法は既存のコーニッシュパイ法よりも簡便だという。Shengチームリーダーは次のようにコメントした。「ニワトリ胚は発生現象を研究するための理想的なモデルの一つです。今回私たちが改良したコーニッシュパイ法は、あるいはギョウザ法と呼んでも良いですが、私たちが発生現象をまだ十分理解していないことを示しているのかも知れません。このような手段で培養期間を延長し、また並体結合ができるとは誰も予想していなかったと思います。今後、造血幹細胞の発生研究などに今回の培養法を活用したいと思います」。

 
掲載された論文

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=
PubMed&dopt=Citation&list_uids=21086435

 


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