独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2011年1月20日


エミューの初期発生が明らかに
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ニワトリGallus gallusは発生生物学のモデルとして古くから用いられ、多くの実験手法と知見が蓄積している。入手と飼育が容易、移植などの胚操作が比較的簡単にできることなどが理由だ。一方、鳥類内での進化や他の羊膜類との関係性を理解するためには、ニワトリだけでなく多様な鳥の胚発生を比較する必要がある。実際に、マウスと単孔類などの原始的な哺乳類では発生様式が異なることがわかっている。これまでに10種の鳥類の胚発生が詳しく記載されているが、それらはいずれも新顎類であって、より原始的な古顎類に属するものは無い。唯一、19世紀にエミューの発生が簡単に記載されたのみだ。

理研CDBの永井宏樹テクニカルスタッフ(初期発生研究チーム、Guojun Shengチームリーダー)らは、エミューDromaius novaehollandiaeの発生過程を初めて詳細に記載し、Developmental Dynamics 誌の1月号に発表した。さらに、初期発生に関わる遺伝子の発現も解析し、ニワトリとの類似点と相違点を示している。


農場で飼育されているエミューとその卵(緑)。茶色は鶏卵。


彼らは国内の農場からエミューの有精卵を入手し、温度37℃、湿度20〜40%の条件で、0〜44日間孵卵を行った。これらの胚を取り出し、HumburgerとHamilton(HH)が体節など様々な形態的特徴に基づいて決定したニワトリ胚の発生ステージ表と照らし合わせた。得られた胚はHHステージ1〜43に相当するものだったが、最も明確な違いは発生の速度だった。エミューの場合、HHステージ2に達するのに1日、肢芽の形成までに7日、羽毛原基の出現に23日と、ニワトリ胚と比べて2〜3倍の時間がかかることがわかった。

初期発生について詳しく観察したところ、胚の大きさは孵卵前からHHステージ7まではニワトリと同様であった。一方、体節形成期から肢芽ができる頃になると、同じ体節数の胚を比較した場合、エミュー胚の方が小さく、また形態的にも発生が遅かった。体節だけでなく他の形態的特徴も考慮すると、肢芽形成期までは両者はほぼ同じ大きさで、肢芽形成期を越えるとエミュー胚が急速に大きくなるようだった。また、体節形成の周期がニワトリでは90分であるのに対し、エミューでは100〜110分であることなども明らかになった。彼らは原条の形成など他にも詳細な比較を行っている。

 

エミューの発生過程。左からHH3+、HH7、6体節期、HH18、HH36。

 

次に彼らは、ニワトリの初期発生で重要な役割を果たす遺伝子ShhChordinBrachyury について、エミューにおける発現パターンを調べた。すると、HHステージ1〜7において、いずれの遺伝子もニワトリ胚と同じあるいは非常に類似した発現を示していた。唯一の有意な違いは、ニワトリ胚のBrachyuryはHHステージ1の終わりに発現し始めるのに対し、エミューのそれはHHステージ2と3の境界で発現し始めることだった。

Shengチームリーダーは、「1887年にハズウェルがエミューの初期発生について簡単に記載して以来、初めてその詳細を明らかにすることができました。その結果、鳥類の発生様式は高度に保存されていることが示唆され、それゆえ、ニワトリ胚で得られた知見の多くは鳥類全体に当てはまることが示唆されました。一方で、全体のあるいは個々の組織の発生速度は種によって大きく異なることもわかりました。今後、エミュー胚は細胞標識や組織移植、イメージングなどの手法を用いて、胚の大きさと発生速度の関係性を研究する良いモデルになると思います」とコメントした。

 
掲載された論文

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=Pub
Med&dopt=Citation&list_uids=21181941

 


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