独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2012年6月22日


高次クロマチン構造形成のメカニズムに新たな発見
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真核細胞の染色体はヘテロクロマチンと呼ばれる高度に凝集した構造を持つ。これらの部位では遺伝子発現が全般的に抑制され、エピジェネティックな遺伝子発現制御機構として重要な役割を果たす。近年、分裂酵母の染色体をモデルにした研究で、セントロメアにおけるヘテロクロマチン形成にRNA干渉(RNAi)の機構が関与していることが示されている。しかし、これら2つの機構が具体的にどのようにリンクしているのか、分子レベルでは未解明な点が多い。

理研CDBの石田真由美研究員(クロマチン動態研究チーム、中山潤一チームリーダー)らは、RNAi関連因子であるChp1が、メチル化されたヒストンだけでなくDNAおよびRNAとの結合を介してヘテロクロマチン形成に寄与する仕組みを明らかにした。この研究成果は、Molecular Cell 誌に6月21日付けでオンライン先行発表された。

分裂酵母ヘテロクロマチン形成に関与する4つのクロモドメインタンパク質:Chp1とClr4のクロモドメイン(CD)は、メチル化ヒストンに加えDNA/RNAに対する結合能も持つ。これによりクロマチンへの結合を安定化し、ヘテロクロマチンの確立に寄与していると考えられる。



ヘテロクロマチン形成はヒストンのメチル化によって制御されている。分裂酵母では、Clr4と呼ばれるメチル基転移酵素がヒストンH3の9番リジンをメチル化し、そこにHP1タンパク質(Swi6やChp2)が結合することで発現抑制的なクロマチンが形成される。一方、RNAiは転写されたRNAを分解することで遺伝子発現を抑制する機構である。分裂酵母のセントロメア領域では弱いレベルでnon-coding RNAが転写され、このRNAがRNAi機構によって2本鎖化され、短い小分子RNA(siRNA)へ変換される。このsiRNAはRITSと呼ばれる複合体に取り込まれ、再びセントロメアのnon-coding RNAを標的としてクロマチンへ結合する。この一連の過程がClr4をセントロメア領域に動員し、ヒストンのメチル化を誘導することが知られている。今回彼らが着目したChp1は、RITS複合体の構成因子であり、RITSをセントロメア領域に動員する際に最も重要な機能をはたす。なお、Chp1を始め、Clr4、Swi6、Chp2はいずれもメチル化ヒストンに結合するクロモドメイン(CD)を持つタンパク質である。

彼らはまず、Chp1がRRMと呼ばれるRNA結合ドメインを持つことから、RNAとの結合を介して機能する可能性を探った。実際にRNAとの結合を生化学的に調べたところ、RRMだけでなくCDもRNAに結合することを発見した。CDはメチル化ヒストンとRNAの両方に結合することを意味しているが、両者はどのような関係にあるのか。彼らはChp1-CDの生化学的解析を進めたところ、両者の結合が共役しており、一旦Chp1-CDがメチル化ヒストンに結合すると、RNAに対する結合能が10倍近く上昇し、加えてDNAに対する結合能も獲得することを見出した。核磁気共鳴による構造解析によって、Chp1-CDがメチル化ヒストンとDNA/RNAの両方に結合する仕組みも明らかになった。これらの結果は、Chp1がCDを介してメチル化ヒストンとDNA/RNAの双方に結合し、クロマチンへの結合を安定化していることを示唆していた。

実際に、Chp1のDNA/RNA結合は、細胞内で重要な役割を果たしているのだろうか。彼らは構造解析の結果を基に変異型Chp1を酵母に導入しその機能を探った。すると、メチル化ヒストン結合部位に変異を導入した場合だけでなく、DNA/RNA結合部位に変異を導入した場合も、Chp1のセントロメア領域への局在が低下し、ヘテロクロマチンの機能が阻害されることがわかった。またChp1は、メチル化ヒストンへの結合を介さずに遺伝子発現を抑制する機能を持ち、この機能にCDとRRMのRNA結合が協調的に寄与していることも分かった。

このような核酸結合はChp1-CDだけの特徴なのかどうか、彼らは他のCDタンパク質の核酸結合能を改めて解析した。すると、Clr4-CDもメチル化ヒストンへの結合と共役したDNA/RNA結合能を持つことが明らかになった。これらの結果は、4つのCDタンパク質の中でも、ヘテロクロマチンの確立に関わるChp1とClr4、またその維持に関わるSwi6とChp2という2つのクラスがあり、核酸結合能はこれらの間の機能分担に寄与している可能性を示唆していた。中山チームリーダーは、「今回明らかになったChp1の核酸結合を介した機能が、他のヘテロクロマチン領域、さらには他の真核生物でも見られるのか検証したい。また、ヘテロクロマチン形成とRNAi機構における、CDタンパク質の機能の全容を明らかにしていきたいです」とコメントした。



掲載された論文

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1097276512004017

 
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