独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2012年9月20日


タリンが細胞骨格と細胞膜をつなぐ
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細胞内には線維状の細胞骨格と呼ばれる構造があり、細胞の形をつくったり物質の輸送路として機能したりと、多様な役割を果たしている。そのうちの一つ、アクチン線維はモータータンパク質であるミオシンⅡと結合して収縮し、細胞の運動や移動を担っている。アクチン繊維とミオシンⅡの複合体、アクトミオシンは、いわば細胞の筋肉だ。しかし、アクトミオシンの力を細胞の動きに反映させるためには、アクトミオシンと細胞膜が何らかの方法でつながっている必要がある。

理研CDBの辻岡政経客員研究員(電子顕微鏡解析研究室、米村重信室長)らは、細胞性粘菌Dictyostelium discoideumを用いた実験で、タリンと呼ばれるタンパク質が細胞骨格と細胞膜をつないでいることを明らかにした。タリンを欠損すると細胞膜の動きを伴う細胞移動や細胞分裂に異常が生じた。この研究は山口大学、京都大学、英エジンバラ大学、理研生命システム研究センターとの共同で行われ、米科学誌Proceedings of the National Academy of Science の8月号に発表された。


A: 細胞分裂時におけるタリンAとミオシンⅡの共局在。B: タリンAを欠損すると(上のパネルが正常、下のパネルがタリンA欠損)収縮環(緑、ミオシンⅡをGFPで標識)と細胞膜が剥離し、分裂に失敗する。数字は時間(分)。


細胞膜直下のアクトミオシンは、その収縮と弛緩によって細胞の形態変化や運動、移動などに大きな役割を果たしている。今回着目したタリンは、哺乳類においてアクトミオシンとインテグリンとをつないでいることが知られている。インテグリンは膜貫通タンパク質で、細胞内ではタリンを介してアクトミオシンに結合し、細胞外では細胞外基質に結合している。そのため、細胞移動の際にアクトミオシンの動きが移動の足場となる細胞外基質に伝わる。しかし、細胞の適切な移動や運動のためにはアクトミオシンの動きが細胞膜とも連動している必要がある。そこで辻岡らは今回、細胞性粘菌を用いてアクトミオシンと細胞膜との連動におけるタリンの役割を探ることにした。細胞性粘菌は単細胞期に移動性を示し、かつミオシンⅡ遺伝子を1つしか持たないため解析がし易い。

彼らがまず、タリンA(細胞性粘菌におけるタリンの相同体)の局在を調べたところ、移動中の細胞の後端に発現していることが分かり、これがミオシンⅡの発現位置と良く一致していた。一方で、タンパク質の結合実験では、タリンAはミオシンⅡと直接結合しているのではなく、アクチンと結合していることが示唆された。また、ミオシンⅡを欠損させると、タリンAの細胞後端への局在が失われることから、タリンAはミオシンⅡ依存的にアクチンに結合していることが示された。

次に、タリンAの細胞移動における役割を調べた。まず、タリンAを欠損させると、移動している細胞の後端が尾の様に長くなり、細胞膜が細胞外基質からうまく剥がれない様子だった。そこで、細胞性粘菌のインテグリンβ鎖であり、細胞外基質と結合しているSibAを同時欠損させたところ、細胞後端の尾は生じなくなった。これらの結果は、タリンAを欠損するとアクトミオシンの収縮が細胞膜に伝わらず、細胞膜が細胞外基質に接着したまま残ってしまうことを示唆していた。

アクトミオシンは細胞分裂においても重要な役割を果たしている。細胞分裂に伴って、細胞表層をリング状に1周しているアクトミオシン(収縮環)が収縮し、細胞にくびれが生じる。収縮環はさらに収縮を続けてくびれが細くなり、やがて細胞がちぎれるようにして2つに分裂する。彼らが細胞分裂時のタリンAの局在を調べたところ、収縮環を形成するミオシンⅡと共局在していることがわかった。そこで、タリンAを欠損させて細胞分裂の様子を観察すると、収縮環から細胞膜が剥離してしまい、くびれが正しく生じずに細胞分裂に失敗することが明らかになった。

最後にタリンAの結合ドメインを詳しく解析した。その結果、C末端のドメインがアクチンと結合するのに対し、N末端のドメインは細胞膜を構成する脂質の一種、フォスファチジルイノシトール二リン酸およびフォスファチジルイノシトール三リン酸と結合することが明らかになった。2つの脂質のうち前者は、移動する細胞の後端および収縮環付近の細胞膜に局在することから、タリンAと細胞膜との結合に寄与している可能性が示唆された。

今回の研究により、タリンAが細胞骨格と細胞膜をつなぐことにより、正常な細胞移動や細胞分裂が導かれていることが明らかになった。辻岡研究員は、「哺乳類のタリン欠損細胞においても、細胞膜とその直下のアクチン細胞骨格との剥離が観察されています。そのため、今回粘菌細胞を用いて明らかにしたタリンの機能は、種を越えて保存されている可能性があります。今後、タリンや関連分子の機能解析を進め、細胞膜と細胞骨格がリンクするメカニズムの全容を明らかにしていきたいです。」と語った。


掲載された論文 http://www.pnas.org/content/109/32/12992.long
 


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