独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2012年12月28日


超解像顕微鏡で明らかになった微小管の最先端構造
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細胞骨格の1つである微小管は、物質輸送のレールとして重要な役割を持ち、また細胞内小器官の適切な配置にも寄与している。微小管はチューブリン二量体が繊維状に結合し(素繊維)、中空構造を成している。微小管は細胞分裂間期には細胞質全体に広がってネットワークを形成しており、絶えず構築と崩壊を繰り返している。微小管の先端のうちチューブリンの付加が活発な側をプラス端、逆に解離反応が起きやすい側をマイナス端と呼び、各先端部にはそれぞれに特異的に結合する分子群が存在する。これらの分子は、微小管ネットワークの構造や機能において、どのような役割を担っているのだろうか。

理研CDBの清末優子ユニットリーダー(光学イメージング解析ユニット)らは、超解像度顕微鏡および画像解析技術を用いて細胞内における微小管の最先端構造を高解像度に解析し、2つの微小管プラス端集積因子の空間的および機能的住み分けを明らかにした。この成果は、米国のオンライン科学雑誌 PLOS ONEに12月13日付けで掲載された。



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マウス繊維芽細胞におけるEB1分子の動き(緑:EB1、赤:チューブリン)。
EB1は微小管の伸長時にその先端に局在するため、すい星のように移動して見える。


研究グループが見出してきた微小管プラス端集積因子(+TIPs)は、伸長する微小管の先端にすい星のように分布する分子群である。これまでの研究から、主要な+TIPsであるEB1とch-TOGは、共に微小管の長さの制御に機能していることが知られ、さらにEB1はプラス端に他の微小管調節因子を呼び込む機能を有することが示唆されている。しかし、これらの分子の機能的住み分けや協調関係については不明だ。また、チューブリンの重合や+TIPsの微小管への結合様式の詳細な解析は主に試験管内で行われてきたが、細胞の中でこれらの分子の挙動を詳しく比較する手段はなかった。

そこで彼らは、分解能(異なる2点を分けて識別できる限界値)100nmを達成する最新の超解像構造化照明顕微鏡法(SIM)を導入した。従来の光学顕微鏡では分解能200nmが限界とされていたが、SIMでは照射する光を精密にパターン化して制限し、高分解情報を抽出することで、蛍光シグナルを高精度に検出できる。さらに、この技術に蛍光シグナルの最高輝度を25nmの分解能で求める画像解析手法を組み合わせ、これまでにない高精度での解析を実現した。この技術を用いて得られた数百におよぶ画像を平均化し、微小管プラス端に結合するEB1およびch-TOGの局在を詳細に解析すると、興味深いことに、これまで微小管プラス端の最先端に位置すると考えられていたEB1よりもさらに100nm以上突出した先端部に、ch-TOGが結合することが明らかになった。

次に、両分子の機能的な関連を探るため、一方の分子を過剰発現させて他方の分子の局在を調べた。すると、いずれの場合も局在に変化は見られず、両分子は独立して微小管の異なる部位に結合していることが確認された。また、HeLa細胞を用いてRNAi法によるノックダウンを試みたところ、EB1、ch-TOG共に単一欠損では微小管プラス端が伸長も解離もせずに停止している時間が長くなり、両者を同時に欠損させるとその傾向はさらに顕著になった。このことから、EB1とch-TOGは微小管の異なる部位に結合し、それぞれ独立に微小管のターンオーバーの促進に機能していることが分かった。

さらに、EB1欠損時にのみ、基底側の細胞辺縁部の微小管密度が大幅に低下する様子が観察された。これは、研究グループが過去に報告したCLASP(微小管プラス端を細胞皮層につなぎとめる役割を担うEB1結合タンパク質)の欠損時に見られたのと同様の表現型であった。そこで、全内部反射蛍光顕微鏡(カバーガラスから約200nmの浅い領域だけを超高感度に観察可能)を用いて基底側の細胞膜付近を観察すると、EB1欠損時には辺縁部の微小管の消失が確認された。このことから、EB1は微小管のターンオーバー促進に加えて、CLASPと協調して微小管を細胞辺縁部につなぎとめるのに機能していることが分かった。

今回の研究から、これまで一括りに捉えられてきたEB1とch-TOGがそれぞれ微小管の異なる領域に特異的に結合し、一部の役割を重複させながら、独立して微小管制御に機能していることが明らかになった。また、これまで微小管の伸長様式には長い論争があり、精製チューブリンを用いた試験管内での実験やシミュレーションから、付加されたチューブリンがシート状なった後に閉じて中空構造になる、チューブリンが螺旋状に付加され管状を保ったまま伸長する、チューブリンがランダムに付加され各素繊維がばらばらに伸長する等の様々なモデルが提唱されていた。しかし最近、EB1は閉じて管状になった素繊維の間に結合するという報告がなされたことから、今回発見したEB1より先端の100nm部分は中空構造を形成しておらず、閉じていない素繊維が異なる長さで存在していると推察された。「100nmはチューブリン分子12個分。開いたままになった素繊維はこれまで考えられていたよりもずっと長く、微小管伸長における仮説に貴重な知見を与えます。また、EB1とch-TOGがわずかな住み分けにより微小管動態に全く異なる影響を及ぼすことは驚きで、ナノメートル・スケールでの詳細な局在解析が分子機能の理解に役立つことが分かります。」と清末ユニットリーダーは語った。


掲載された論文 http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%
2Fjournal.pone.0051442
 


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