独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター

2013年6月21日


ニワトリがカエル式の原腸陥入?
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「人生で最も大事な時は、誕生でもなく、結婚でもなく、死でもなく、原腸陥入である」と言ったのはイギリスの発生学者ウォルパート。原腸陥入とは発生初期に起こるダイナミックな形態形成運動で、これによって体の全ての構造の基本となる外胚葉、中胚葉、内胚葉が形成される。原腸陥入は多くの動物に共通する現象だが、魚類や両生類などの無羊膜類では原口と呼ばれる部位を中心に起こり、鳥類や哺乳類などの羊膜類では原条と呼ばれる部位で起こる。このような原腸陥入の多様性が進化の過程でどのように生じたのかは明らかになっていない。

理研CDBのCantas Alev研究員(初期発生研究チーム、Guojun Shengチームリーダー)らは、ニワトリ胚がカエル胚と同様の原腸陥入を起こし得ることを明らかにし、原腸陥入の進化のメカニズムに新たな知見をもたらした。この研究成果は Development 誌に5月22日付けでオンライン先行発表された。


通常、ニワトリ胚では原条で中胚葉誘導が起きるが(左)、FGFを胚盤葉上層全体で発現させるとリング状の中胚葉誘導が観察された(右)。ともに初期中胚葉マーカーのBrachyuryを染色。


カエルなど無羊膜類の原腸陥入では、原口を中心に胚の周囲に沿ってリング状に中胚葉誘導が起こり、それらの細胞が胚の内側へと陥入して中胚葉をつくる。一方、羊膜類のニワトリでは、直線状に伸びた原条で中胚葉誘導が起こり、同様に陥入して中胚葉をつくる。これらの過程には、多くの動物種に共通して、FGF、Wnt、TGFβシグナルが関与していることが知られている。今回彼らは、ニワトリ胚においてこれらのシグナルを操作することで、原腸陥入のメカニズムを詳しく探った。

まず、原条が形成される前の胚全体(胚盤葉上層)でFGFを過剰発現させたところ、非常に興味深いことに、胚の周囲に沿ってリング状に初期中胚葉マーカー(Brachyury)の発現が誘導された。この領域を詳しく調べると、原腸陥入の際に見られる上皮間充織転換や細胞移動が観察され、また、無羊膜類で見られるのと同様の背腹軸も形成されていた。これらのことは、羊膜類であるニワトリ胚において、無羊膜類型の原腸陥入が起きていることを示していた。さらに、リング状の中胚葉誘導が起きた胚のうち、半数以上では原条の形成が見られないことから、中胚葉誘導に原条が必須でないことが明らかになった。

FGFを胚盤葉上層全体で発現させた際、リング状の中胚葉誘導が見られたが、その中央部では決して見られなかった。このことから、中胚葉誘導にはFGF以外にも重要な因子が働いており、中央部ではそれを欠いていることが予想された。そこで、FGFシグナルに加えてWntシグナルを胚盤葉上層全体で活性化させると、リングの中央部を含む胚盤葉上層全体で中胚葉誘導が起こるようになった。この結果は、FGFシグナルとWntシグナルが協調的に機能することで中胚葉誘導を導いていることを示していた。彼らの実験によると、もう一つの因子TGFβは、主に中胚葉の背側化と細胞移動に働いていることを示唆していた。  Alev研究員らは、他の幾つかの羊膜類、ウズラ、エミュー、スッポンについても同様の実験を行った。その結果、いずれの種においてもFGFの過剰発現によってリング状の中胚葉誘導が観察された。このことは、この現象が広く羊膜類に共通するものであることを示唆していた。

今回の研究は、FGFシグナルを異所的に活性化させることにより、羊膜類が無羊膜類と同じ様式の原腸陥入を起こし得ることを明らかにした。彼らは、羊膜類ではFGFの発現領域を胚の一部に限定することで、リング状ではなく、原条だけで原腸陥入が起こるように進化したと考えている。Shengチームリーダーは、「卵黄の多いニワトリ胚では、カエルのように胚全体で原腸陥入するのではなく、胚の上部で平面的に行う必要が生じたものと考えられます。ただ、今回の実験が示すように、カエルでもニワトリでも、起きていることは根本的には同じなのです」と語った。


掲載された論文

http://dev.biologists.org/content/140/13/2691.long

 
 


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