独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2014年1月24日


ヒトiPS由来網膜色素上皮の前臨床研究
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理研CDBの高橋政代プロジェクトリーダー(網膜再生医療研究開発プロジェクト)らは、眼科疾患の一つである滲出型加齢黄斑変性を対象に、患者iPS細胞由来網膜色素上皮シートを移植する臨床研究を昨年8月に開始した(http://www.riken-ibri.jp/AMD/)。再生医療において幹細胞由来の細胞を移植する場合、移植細胞の品質と安全性をいかに確保するかが重要であり、この臨床研究においても前臨床研究データの綿密な評価の下に実施が決定された。

理研CDBの鎌尾浩行研究員(網膜再生医療研究開発プロジェクト、高橋政代プロジェクトリーダー)らは、臨床研究に先立って行われた前臨床研究の結果をStem Cell Reports 誌に1月23日付けで発表した。ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮(RPE)シートが生体由来のRPEシートと同等の性質をもつことや、ラットや霊長類を用いた試験ではiPS細胞由来RPEシートに造腫瘍性が無いことを示している。

左:ヒトiPS細胞由来RPEシート。移植用にレーザーで様々な大きさや形に切り出した様子。右:サルiPS細胞由来RPEシート(矢印)をサルの網膜下へ移植した直後の様子。


彼らはまず、ヒトiPS細胞からRPE細胞を分化誘導し、色素をもつ細胞だけを選別して拡大培養した。これらの純化した細胞について形態的な特徴やマーカー遺伝子の発現を解析したところ、生体由来のRPE細胞と同様の特徴をもつことが確認された。さらに、これらのRPE細胞を、後に除去可能なコラーゲンゲル上で培養し、シート状のRPE組織を作製した。このRPEシートは生体で見られるのと同様に一層の細胞で構成され、上皮組織に特徴的な頂端側−基底側の極性や基底膜の形成が観察された。さらに、成長因子の分泌を調べると、頂端側と基底側でそれぞれPEDFとVEGFを分泌しており、生体RPEと同様であった。また、RPEシートを挟んだ電気抵抗性を調べた結果、生体RPEがもつ「血液−網膜バリア機能」を有していることも示唆された。

次に、RPEの障害により視細胞が欠損していくモデルラットを用いて、iPS細胞由来RPEシートの生体内における機能を解析した。免疫抑制剤を投与したモデルラットの網膜下にヒトiPS細胞由来RPEシートを移植したところ、対照実験と比較して視細胞が維持されることや、網膜異常の検査に利用される網膜電図の所見が改善することが明らかになった。これらの試験管内および生体内の解析結果から、ヒトiPS細胞由来RPEシートが、形態、遺伝子発現、機能のいずれにおいても、生体RPEと同様の性質をもつことが示された。また、ラットへの移植では、複数系統のiPS細胞由来RPEシートの移植を行ったが、いずれの場合も腫瘍形成は見られなかった。

最後に、iPS細胞由来RPEシートを移植した際の免疫拒絶について検証した。まず、サルのiPS細胞由来RPE細胞とリンパ球を試験管内で反応させる実験を行ったところ、自己・非自己の認識に重要な役割を果たすMHC抗原が一致しない場合は、同種間であっても免疫反応を誘発することが示唆された。さらに、iPS細胞由来RPEシートをサルの網膜下に同種移植または自家移植する実験を行った。その結果、同種移植の場合は免疫拒絶を示す種々の反応が見られたが、MHC抗原が一致する自家移植の場合は免疫拒絶が起こらず、移植後一年の経過観察でも生着していた。サルへのiPS細胞由来RPEシートの移植は複数回行ったが、いずれの場合も腫瘍形成は見られなかった。

高橋政代プロジェクトリーダーは前臨床研究の結果について次のように語った。「最も重要なのは安全性ですが、動物実験では自家移植の場合は免疫拒絶が起こらないこと、また、腫瘍形成も起こらないことが示されました。眼はもともと腫瘍ができにくい器官である上に、加齢黄斑変性の場合は移植する細胞が非常に少なくて済むため、細胞の品質管理が比較的容易に行えます。また、万一移植後に何らかの異常が起きても、画像診断等で早期に検出して対処することができます。そのため、現在取り組んでいる加齢黄斑変性は、iPS細胞を用いる最初の臨床例として非常に適しているのです。今後も、少しでも早く患者さんに治療法を届けられるように研究に取り組んでいきます」。


掲載された論文 http://www.cell.com/stem-cell-reports/fulltext/S2213-6711(13)00175-6
 
関連リンク 滲出型加齢黄斑変性の臨床研究


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