独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2003年12月2日


マウス初期発生に必須な母性効果遺伝子
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生殖細胞の確立に関与することが示唆された遺伝子stellaは、母性効果遺伝子として機能しマウスの初期発生に必須である事が明らかにされた。遺伝子ノックアウトによりstellaを欠損するマウスの卵は、受精後数回の卵割で発生が止まり、結果として繁殖能が大きく低下した。これらはウェルカムトラスト研究所(ケンブリッジ、英)、大阪大学とCDBの斎藤通紀チームリーダー(哺乳類生殖細胞研究チーム)の共同研究の成果。

母性効果遺伝子はショウジョウバエやゼブラフィッシュ、アフリカツメガエルなどで研究が進められてきたが、マウスを含む哺乳類では少数の報告しかない。哺乳類以外のモデル生物では、母性効果遺伝子は卵母細胞で発現し、そのmRNAは卵細胞の特定の領域に局在する。これらのmRNAがコードするタンパク質は、受精とその後の初期発生で胚のパターニングなどに関与する事が知られている。しかしマウスの胚発生では、最初の何回かの卵割で生じた細胞は互いに等価であると考えられ、母性効果遺伝子の影響はごく限られたものであると考えられてきた。

ウェルカムトラストの研究チームと斎藤チームリーダーは、始原生殖細胞や卵母細胞、着床前の胚で特異的に発現しているstellaのノックアウトマウスを作製し、この遺伝子の生理学的機能を解析した。その結果、ホモ接合のノックアウトマウスでも生存可能である事が分かり、生殖細胞の発生にも顕著な異常はみられなかった。しかし、雄のノックアウトマウスは正常な生殖能をもつのに対し、雌では生殖能が大きく低下する事が明らかとなった。そこで彼らは受精直後の発生を観察したところ、雌のノックアウトマウスの受精卵は胎盤に着床できず胚発生が停止してしまうことがわかった。さらに出生率の低下は雄のstella遺伝子の有無に関係しないことから、この遺伝子が母性効果遺伝子であることが明らかになった。

stella遺伝子の初期発生以降の機能は未だ明らかにされていない。stellaをもたないマウスの生殖細胞でも顕著な変化が見られないことから、stellaの機能を補償するような遺伝子が存在する可能性が示唆される。Stellaタンパク質は、細胞の多能性や胚性癌、生殖細胞の癌化に関与することが示唆されるヒトのタンパク質と共通構造を持つことからも重要であり、これら一連の分子の初期発生及び生殖細胞形成における機能解析をさらに進める予定である。


掲載された論文 http://www.current-biology.com/content/article/abstract?uid=PIIS0960982203008686

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