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赤血球への近道

2014年03月18日
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羊膜類の発生において、胚発生初期の血液(主として胚型赤血球)は中胚葉で産生され、胚に供給される。まず胚盤葉上層の多能性細胞は原腸陥入を経て外胚葉、中胚葉、内胚葉を形成する。形成された中胚葉の一部は、造血因子を発現し、血管内皮細胞や血球のもととなるヘマンジオブラストと呼ばれる細胞集団を形成する。そしてヘマンジオブラストの一部から赤血球が分化する。これまでに中胚葉で造血因子が発現してから、ヘマンジオブラストで赤血球系列に特有の遺伝子であるグロビンが発現するまでにタイムラグがあることが報告されていたが、この間に何が起きているかについては明らかでなかった。

Wei Weng研究員(初期発生研究室、Guojun Sheng 特別主幹研究員)らは、ニワトリ胚をモデルに、5つの赤血球分化関連転写因子の発現を誘導し、FGF経路を阻害すると、生体内で胚盤葉上層の細胞が赤血球へ直接分化することを示した。研究成果はStem Cell Reports 誌に2月4日付けで掲載され、胚発生時に必要なステップを省略して分化を誘導する新しい技術が示された。

  1. (左図)(左)胚発生における赤血球分化過程。(右)胚盤葉上層からの直接誘導。
    (右図)5つの転写因子(SCL、LMO2、GATA2、E2A、LDB1)により前脳及び表皮外胚葉でグロビン発現細胞が誘導された。

研究グループは、これまでにニワトリでFGF活性が赤血球分化を阻害することを報告していた。今回は、FGF活性が造血因子SCL、LMO2の発現と、赤血球分化の初期に与える影響を調べた。内在性SCLとLMO2の発現開始前後の胚でFGFを阻害しその影響を調べたところ、FGF活性が両遺伝子の中胚葉での発現開始に必要であることが示唆された。また、SCLとLMO2を強制発現させる際、同時にFGF活性を阻害することで、赤血球分化をより強く誘導出来ることも示した。これよりFGF活性は造血因子SCL、LMO2の誘導には必要であるが、その後の赤血球分化を抑制することが示された。

FGFを阻害し、SCL、LMO2遺伝子を発現させるだけでは、胚盤葉上層の多能性細胞を直接赤血球分化へ誘導することは出来なかった。そこで研究チームは、別の因子が必要であると考え、SCLやLMO2と発現様式が近いものを転写産物データベースから検索し、ほ乳類で造血関連因子として知られているLDB1とE2Aを同定した。これらの遺伝子は、試験管内でSCLとLMO2、GATA2と共に複合体を形成して赤血球分化を誘導すると考えられている。

そこでSCL, LMO2, GATA2, E2A, LDB1の5つの遺伝子発現ベクターを構築し、これらを造血因子が発現する前の胚に電気穿孔法を用いて導入し、同時にFGFを阻害することで、胚盤葉上層に、赤血球分化の指標であるグロビン遺伝子の発現を強く誘導できることを示した。興味深いことに、この組合せでは胚盤葉上層にヘム(赤血球の構成要素)の生合成に関連する遺伝子を誘導できることから、赤血球分化を直接誘導するだけでなく、赤血球形成に関わる他の重要因子の発現も誘導できることが示唆された。またこの5つの遺伝子を、内在性FGF活性が低下する時期の胚に導入したところ、外胚葉由来である前脳及び表皮外胚葉にもグロビン遺伝子を誘導できることが明らかになった。

「これまで様々なグループが、鍵となる造血因子を数種類利用して中胚葉からの赤血球分化誘導に取り組んで来ましたが、今回我々は中胚葉と同時にそれ以外の細胞からの誘導にも着目しました。そして中胚葉にとどまらず、多能性を持った胚盤葉上層の細胞や、すでに多能性を失った外胚葉由来の細胞から、特定の系列への分化を高効率で誘導することができました。しかし、試験管内でも同じ効率で誘導可能かについては、更なる検証が待たれます。」とWeng研究員は語った。

掲載された論文 Five Transcription Factors and FGF Pathway Inhibition Efficiently Induce Erythroid Differentiation in the Epiblast
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