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接着だけじゃない 細胞の移動にも寄与するカテニン

2017年12月04日
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細胞は時に、長い距離を集団で移動する。神経堤細胞はその代表格で、発生期に胎児の顎付近に生じた神経堤細胞群は、消化管内に侵入すると、食道、胃、小腸、大腸を通って肛門まで移動しながら、管内を隙間なく覆う腸管神経の網を形成していく。このとき個々の細胞をよく見ると、細胞は互いに接着しながらも活発に運動している。接着と運動。一見すると相反するようにも思われるが、例えば脳の神経細胞は集団でないとうまく目的の組織まで到達できないなど、細胞の集団移動が発生期の組織形成に重要な役割を果たす例は枚挙にいとまがない。細胞の接着と運動を統合する何らかの分子機構があると考えられるが、詳細は不明だった。

理研CDBのVassil Vassilev研究員、Anna Platek研究員(高次構造形成研究チーム、竹市雅俊チームリーダー)らは、集団移動する細胞において、カテニンが細胞同士の接着だけでなく、単一細胞内で進行方向の前方/後方を決める極性の維持に寄与することを解明。進行の最前線にあたる葉状仮足から細胞内部へと取り込まれたβカテニン/αEカテニンが、進行方向後方で細胞を収縮させるミオシンの活性化に機能していることを、マウス腸管の組織培養および培養細胞を用いた研究で示した。本成果は科学誌Developmental Cellに2017年11月20日付で掲載された。

  1. 培養細胞の移動の様子。正常な細胞(左上)は葉状仮足を活発に動かして一方向にまっすぐ進むのに対し、
    カテニン欠損細胞(左下:βカテニン、右下:αカテニン)は方向性なく進んでいる。

腸管神経の形成機構については、これまで榎本秀樹元チームリーダー(神経分化・再生研究チーム、現神戸大学医学部教授)らが中心となって研究され、神経堤細胞が集団でダイナミックに移動していく様子を観察していた(*科学ニュース2012.8.30)。神経堤細胞にはNカドヘリンが発現しており、カドヘリン・カテニン複合体が細胞同士の接着を担っている。カテニンは、カドヘリンの細胞内ドメインと結合するβカテニンと、βカテニンに結合して接着を安定化させるαカテニンが知られる。そこで神経堤細胞の集団移動におけるNカドヘリンとカテニンの働きを探るべく、神経堤細胞で特異的にこれらの分子を欠損させたマウスの腸管組織を観察。すると、特に、カテニンをもたない神経堤細胞は正常に移動することができなかった。個々の細胞の挙動を追うと、細胞同士が接着せずバラバラになっており、動きも遅かった。

摘出した腸管を培養していると、組織から這い出した細胞がシャーレに貼りついて各々移動を始める。このとき、カテニンを欠損した細胞は一方向にまっすぐに進めない様子が観察された。これらの分子は、細胞間の接着だけでなく、個々の細胞の運動にも影響を及ぼすのかもしれない。そこでVassilらは、培養細胞を用いて、まずはカテニンの細胞内局在を確認。すると、細胞同士の接着面だけでなく細胞質中にも分布しており、動画では、細胞の進行方向最前線にある足のような構造(葉状仮足)から核の方へ移動する様子が観察された。詳しく調べると、カドヘリン/βカテニン/αEカテニンは結合して葉状仮足から細胞内に取り込まれており、βカテニンのリン酸化が細胞内への複合体取り込みに重要であること、さらに核までの移動の途中でカドヘリンは外れることが分かった。

  1. (左)葉状仮足から取り込まれたαEおよびβカテニンは核の方へ移動する(U251細胞)
    (右)αEカテニンとRhoGEFは核付近にアーチ状に共局在する(U251細胞)

では、取り込まれたカテニンは細胞内でどのような機能を担うのか。細胞が一方向に移動する際、葉状仮足が次々と足を伸ばす一方、細胞の後方では収縮反応が起きていることが知られる。収縮を担うのはアクトミオシン(アクチン・ミオシン複合体)、ミオシンの活性化を制御するのは活性型RhoA分子だ。そこでカテニンとRhoAの関係を調べると、RhoA活性化分子であるp115RhoGEFとαEカテニンが直接結合し、活性化RhoAを細胞の核付近に高濃度に局在させていることが分かった。αEカテニンを欠損させると、活性化RhoAは細胞質中に分散してしまった。さらに、αEカテニンはミオシンⅡBとも一過的に結合することが判明。細胞内に取り込まれたαEカテニンが活性化RhoAとミオシンⅡBを核付近で引き合わせることで、ミオシンを活性化し、細胞の移動に不可欠な収縮反応を促していることが明らかになった。

「カドヘリン/カテニンは細胞同士の接着のみならず、個々の細胞が移動する際の極性維持に寄与することを今回初めて示しました。これらの働きが両輪となって、組織形成における細胞の集団移動を駆動していると考えられます」と竹市チームリーダーは話す。「葉状仮足では、他の細胞と出会ったらすぐに接着できるよう、常にカドヘリンやカテニンを発現しています。移動を続ける細胞は、まだ接着相手を見つけておらず、これらの分子は無駄になってしまう。そこで、いったん細胞内に取り込んで再利用することが知られているのですが、実際には、再利用する過程で別の役割も担っていた。実によくできた仕組みです。また、カドヘリン/カテニン接着系は多細胞動物に特異的な分子機構ですが、カテニン自体は細胞性粘菌など動物以外にもあります。このことから、カテニンは細胞接着だけでなく、別の機能を担っている可能性があると考えられていました。今回のような機構が、非接着細胞や単細胞生物でも普遍的に観察できるのか、さらに別の機構が観察されるのか。興味は尽きません。」

掲載された論文

Catenins Steer Cell Migration via Stabilization of Front-Rear Polarity

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