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格子光シート顕微鏡が照らし出す細胞分裂の姿

2014年11月06日
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科学とは見えないものを見ようとする試みでもある。天文学であればより遠くを、生物学であればより細部を見ることで、表層観察からは得られない事実を突き止めようとする。近代顕微鏡の父Ernst Abbeは、1873年に「光学顕微鏡では光の半波長よりも高い分解能を得ることはできない(回折限界)」ことを示し、事実、この限界は100年以上も超えられることはなかった。しかしそれでも、より細部や深部を可視化しようとする試みが積み重ねられ、今や細胞内の一分子観察も不可能ではなくなっている。このような「超解像顕微鏡」技術の開発に対して、今年のノーベル化学賞の授与が決まったことは記憶に新しい。

そのノーベル化学賞受賞者の一人、Eric Betzig(米The Howard Hughes Medical Institute:HHMI)らは、新たに開発した超解像顕微鏡「格子光シート顕微鏡」について10月24日号のサイエンス誌に報告している。この論文では、共著者の一人である理研CDBの清末優子ユニットリーダー(光学イメージング解析ユニット)が作製した蛍光導入細胞も解析し、細胞分裂における染色体分配の様子が詳細に明らかにされている。

  1. 染色体とEB1(微小管の伸長端に結合する分子)に蛍光導入したHeLa細胞(分裂期)を
    格子光シート顕微鏡で観察した様子。
    染色体はオレンジ、微小管伸長の軌跡(EB1)はボールと線で示されている。
    HHMIのウェブサイトでは格子光シート顕微鏡で撮影した他の映像も公開されている。

生きた細胞内の構造や分子の動きは速いため、それら三次元的に可視化するためには、解像度に加えて撮影速度も重要になる。近年の超解像顕微鏡では解像度は飛躍的に向上したが、一方で解析に時間がかかるため、生物を対象にした3Dライブイメージングには適用しづらかった。

今回Betzigらが開発した格子光シート顕微鏡では、いくつかの重要な工夫がされている。まず、光をシート状に照射する方法を採用し、照射面を制限することで高コントラスト像を得られるようにした。そして、光シートの厚さを300nm以下にすることで、z軸方向の解像度の劣化を大幅に低減した。さらにBetzigらは今回、微小な励起点を格子状に配列して超薄の光シートを形成する方法を開発し、これにより高分解能と高速撮影の両立を実現した。具体的には、xy平面が約200nm、z軸が約300nmを超える分解能で、1秒以内に200枚もの断面像を撮影し、高精細な3次元映像を再構築することが可能になった。これは1秒以下の間隔で細胞を丸ごとスキャンし、その内部の動きを追跡できることを意味している。この方法では照射範囲と照射時間が限られているため細胞に対する光毒性が低く、長時間観察も可能だ。

z軸方向の高解像度化と高速撮影は3Dライブイメージングに大きな効果を発揮した。Betzigらはこの顕微鏡を用いて線虫やショウジョウバエの胚発生、T細胞の動きなどを観察した結果を論文中で示している。清末らが作製した蛍光導入培養細胞が分裂する様子を詳細にとらえることにも成功し、微小管伸長の仔細な動きや、染色体一本一本の動きがかつてない精度で明らかになった。清末ユニットリーダーは、「これまで見ることができなかった分裂装置の内部の微小管動態の検出に成功したことで、分裂装置の働きがこれまで考えられてきたものとは異なっていることが分かりつつあります」と話す。今後、この顕微鏡を活用し、分裂装置が正しく機能する仕組みや、逆に異常が生じて癌化する仕組みなどが明らかになる可能性があるという。「この顕微鏡では様々なスケールのサンプルを解析できるため、細胞分裂だけでなく、生命科学の広範な分野にインパクトをもたらします。私もこの新たな顕微鏡を国内に導入するための取り組みを続けたいと思います」。

掲載された論文 LATTICE LIGHT-SHEET MICROSCOPY: IMAGING MOLECULES TO EMBRYOS AT HIGH SPATIOTEMPORAL RESOLUTION
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