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胎児の脳細胞に簡便に目的の遺伝子を挿入できる新技術

2017年01月25日
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複雑な脳の成り立ちや機能を理解する神経発生学において、in uteroエレクトロポレーションは強力な実験ツールだ。子宮内の胎児の脳にDNAやRNAを注入し、局所的に電気ショックを与えて細胞内に導入する手法で、導入細胞で特定の遺伝子を過剰に働かせたり、抑制したりすることが可能だ。しかしこれまで、この方法を用いてゲノム上の特定の配列に目的の遺伝子を挿入する「ノックイン」はできなかった。in uteroエレクトロポレーションでのノックインが実現すれば、全身の細胞の遺伝子を書き換える遺伝子改変動物とは異なり、発生途中の胎児脳の一部の細胞にだけ遺伝子改変を加え、それを子孫細胞にも受け継がせることができる。無数の細胞のいくつかにだけ目印をつけて分化過程を追跡観察したり、特定のたんぱく質の生体内での局在や挙動を調べたりと、細胞レベルでの様々な解析が可能になると期待される。

理研CDBの恒川雄二研究員とRaymond Terhune研修生(非対称細胞分裂研究チーム、松崎文雄チームリーダー)らは、CRISPR/Cas9システムとin uteroエレクトロポレーションを組み合わせ、マウス胎児脳の神経前駆細胞に目的の遺伝子をゲノム上の特定の部位に効率よく挿入できる新たな手法を開発した。さらにこの技術を発展させ、二色の蛍光マーカー遺伝子を同一遺伝子の相同染色体上にそれぞれ挿入することで、2本の染色体共に遺伝子挿入されている細胞を視覚的に識別できる手法を確立した。本成果は科学誌Developmentに2016年9月1日付で掲載された。

  1. in uteroエレクトロポレーションによる遺伝子ノックイン法の概念図(左)。CRISPR/Cas9システムを用いることで効率よくノックインできた(右)。(スケールバーは100μm)

遺伝子ノックイン技術の開発においては、①誤った箇所への挿入(オフターゲット)、②挿入されたた遺伝子が正しく作動しない、③挿入されなかった遺伝子の誤作動(リーク)などの「望まない挙動」をいかに抑えるかが重要だ。近年注目されているCRISPR/Cas9システムは、上記①を抑え、比較的簡便に遺伝子の書き換え、すなわちゲノム編集を行うことができる。恒川らはこれまでに、CRISPR/Cas9システムを用い、より汎用性が高く、効率良くゲノム編集できる技術を検討。昨年11月、生体内の分化した体細胞でも高効率に遺伝子をノックインできる新技術「HITI」を報告した(*科学ニュース2016.11.21)。今回、HITI開発時に得た知見を活かし、CRISPR/Cas9システムとin uteroエレクトロポレーションを組み合わせて、より簡便に子宮内で胎児脳の神経細胞に遺伝子をノックインできる手法の開発に挑んだ。

CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集は、細胞に本来備わっているDNA切断の修復機構を利用する。修復には相同組み換え経路と非相同末端修復経路の2通りある。HITIは非相同末端修復経路を用いることで非分裂細胞への適用を実現したが、今回は神経幹細胞などの分裂細胞を対象とし、相同組み換え経路を利用することとした。相同組み換え経路を利用する場合、挿入される箇所の前後の配列(ホモロジーアーム)を挿入する遺伝子配列の前後に配置する。このホモロジーアームの長さを調整し、さらに遺伝子導入に用いるベクターを徹底的に改変することで、オフターゲットとリークを最小にできる条件を決定。この条件を用いて、神経細胞マーカーの一つであるβチューブリン(Tubb3)への緑色蛍光タンパク質EGFPの挿入を試みると、遺伝子が細胞内に取り込まれたものの20%以上という高効率でEGFP遺伝子が狙い通りノックインされていることを確認した。

  1. 2種類の異なる蛍光マーカー遺伝子(EGFPmCherry)を同時にノックインすると、ホモでノックインされた細胞(Mergeの黄色の細胞)を色で識別できる。BFP(青)は遺伝子導入細胞。(スケールバーは50µm)

ノックインは、相同染色体上の2つの対立遺伝子を区別せずに起きる。そのため、一方の染色体にだけ挿入される(ヘテロ)細胞も、両相同染色体上に挿入される(ホモ)細胞も生じることになる。これらをどうすれば識別できるだろうか?そこで恒川らは、異なる2色の蛍光マーカー遺伝子が同じ標的遺伝子の配列に組み込まれるよう設計し、in uteroエレクトロポレーションで同時に脳細胞に導入する手法を考案。異なる2色の蛍光を同時に発光する細胞が得られれば、それはホモでノックインされた細胞だと見分けられる。実際にTubb3遺伝子にEGFP(緑)とmCherry(赤)を同時にノックインすると、2色同時に発光する黄色い細胞、つまり相同染色体上の2つのTubb3遺伝子の両方に目的の遺伝子がノックインされた細胞が、遺伝子導入細胞の約10%で観察された。

「2色同時に発光する細胞が高確率で観察できたのは、CRISPR/Cas9による導入効率の高さ故。このシステムを用いればホモでノックインされた細胞が一目瞭然で、その細胞をライブイメージングなどで追跡観察することも可能です」と恒川研究員は話す。「さらに、今回の技術はフェレットにも適用できることを確認しています。遺伝子改変動物は、哺乳類ではマウスをはじめ、胚操作が可能なごく少数のモデル生物でしか作製できませんが、今回のin uteroエレクトロポレーションは非モデル生物にも比較的簡便に用いることが可能です。私たちの複雑な脳はどのように形成され、また、生物の長い歴史の中でどのように進化してきたのか。今回開発した技術が脳神経科学研究の追い風となることを期待しています。」

掲載された論文

Developing a de novo targeted knock-in method based on in utero electroporation into the mammalian brain.

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