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iPS細胞から皮膚付属器官を備えた「皮膚器官系」を再生

2016年04月02日
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皮膚は複数の器官が集まって構成される複雑な「器官系」だ。上皮・真皮・皮下脂肪の三層構造を有し、さらに汗腺や皮脂腺、毛包など、種々の付属器官を備える。各器官には、温度変化や物理的刺激を知覚するための神経や、刺激に応じて鳥肌を立てるための筋肉等の組織が接続し、協調して機能している。重度の外傷や先天性乏毛症、分泌腺異常など様々な皮膚疾患の治療のためのみならず、現在は動物実験に頼らざるを得ない化粧品や外用薬の試験用に、天然の皮膚と同等の機能・構造を備えた人工皮膚の開発が期待されている。しかし、多能性幹細胞から皮膚を構成するそれぞれの細胞への分化誘導は可能になってきたものの、複雑な「皮膚器官系」を立体組織として丸ごと再生することは難しかった。

理研CDBの辻孝チームリーダー(器官誘導研究チーム)らは、iPS細胞をマウス生体に移植して上皮組織を高効率に誘導する新たな手法を開発し、作製した移植物内部に「皮膚器官系」として一式の組織構造が再現されていることを実証した。さらに、この中から毛包を含む皮膚器官系ユニットを切り出し、マウス皮下に移植すると、神経などの周辺組織と接続し、通常と同様に毛周期を繰り返す毛包を再生できることを示した。この成果は、オンライン科学誌Science Advancesに4月2日付で掲載された。

  1. CDB法(左上:上部、下:側面)で胚葉体をマウス成体に移植すると、移植物内部には皮膚器官系を構成する様々な構造が形成された(右)

一般に、iPS細胞やES細胞を生体内に移植すると、三胚葉由来の種々の組織を無秩序に含むテラトーマが形成される。そこで研究グループは、器官再生に必須である上皮組織を高効率に誘導できる条件を探索。胚様体(embryoid body)を数十個まとめてコラーゲンゲル内に埋入して移植する新たな手法(Clustering-Dependent embryoid Body法:CDB法)を開発した。CDB法で作製した移植物内部には、iPS細胞や胚様体を単独で移植したときに比べ約4倍もの上皮性嚢胞が含まれていた。この嚢胞を詳細に解析すると、上皮・真皮・皮下脂肪の三層構造に加え、毛包、皮脂腺など皮膚器官系を構成する組織一式が天然の皮膚と同様に配置されていた。さらに、毛包の形成に重要なWnt10bで胚様体を刺激すると、嚢胞中に毛包をより効率よく誘導できることも明らかにした。

次に、誘導した上皮性嚢胞から毛包を含む皮膚器官系ユニットを切り出し、別のマウス皮下に移植して、その機能を調べた。雄マウス由来のiPS細胞から作製した組織ユニットを雌マウスに移植することで双方の細胞を区別して追跡できるようにすると、移植した部位にはiPS細胞に由来する組織ががん化することなく生着することが判明した。詳細に解析すると、移植した組織は天然皮膚と同様に、皮膚器官系の層構造や毛包、皮脂腺等を形成していた。さらに、毛包周辺には神経や筋肉が接続しており、移植後90日間にわたり通常通りの毛周期を繰り返すことが判明。萌出した毛の色、形状、種類と分布、密度など天然のものと同様であることも確認された。これらの結果は、iPS細胞由来の組織ユニットによって発生期における皮膚形成の「場」が移植部位にも誘導されたことで、天然のものと同様の形成過程を経て毛包が再生された可能性を示唆している。

  1. iPS細胞由来の上皮性嚢胞から毛包を含む組織ユニット(左)を切り出して別のマウス皮下に移植すると、移植片は生着し
    (中央:移植片由来細胞のY染色体(緑)と核(青))、正常に毛周期を繰り返す毛包を再生することができた(右)

「これまでの多くの研究から、毛包をはじめ器官の形成には上皮性幹細胞と間葉性幹細胞の相互作用が必須であることが分かっています。胚様体は多くの場合、表面に上皮性、中央部に間葉性の細胞を生じますが、今回開発したCDB法では、上皮・間葉相互作用に関わる上皮組織の表面積を増大させることができ、結果として完成度の高い皮膚器官系を誘導できたと考えられます」と辻チームリーダーは語る。「Wnt10bの刺激で毛包の誘導効率が向上するという知見は、今後、皮膚器官系の誘導や培養を生体外の系に移行させる上で非常に重要なヒントとなります。今回の成果をもとに、器官系の誘導のための原理解明に向けた基礎研究を進めると共に、臨床や産業に応用できる人工皮膚の開発を目指して研究を進めていきます。」

掲載された論文

Bioengineering a 3D integumentary organ system from iPS cells using an in vivo transplantation model.

 

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